本383…技巧的生活
技巧的生活…吉行淳之介著
毎日一緒に暮らしている女房の心理、絶えず知ろうと努めている恋人の心理さえ、本当に解ることが無い。相手の心理が解ったと言うのは幸福な妄想である。その了解不能の壁の存在を、そして孤独な人間の内部を描く事で、真実に迫れるとする。
男を商品として、無機物の如く見ようとする酒場の女性の、極めて技巧的な生活と意識が描かれる。プロローグの青年と少女の霧の中の恋愛の情景…甘い夢は砕かれ、御伽噺の少女は女になる。それでも、技巧的・不自然な人工的生活をする酒場の女達も、その嘘の上に夢や執念を持っている。
主人公の少女の恋が破れ、手遅れで無理な堕胎をしたトラウマに因る妊娠恐怖と性への嫌悪があり想像妊娠に陥る。それが、彼女をして拒否的な技巧生活を取らしめる。
現代人は他者との了解不能の中に孤独に生きるしかなく、それがそのまま一般の疎外の姿である。自分を守り、生きて行くためには技巧的に暮らす以外にない、と。
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