本357…マカールの夢
マカールの夢…ウラジミール・コロレンコ著
ほら吹きで飲んだくれの主人公マカール。或る日、冷たい吹雪の荒野に力尽き倒れ死んだマカールは、善良な僧であったイワンに連れられ主の下へ。始めは自分の行ってきた事に言い訳しながらも恥じ入りしどろもどろだったマカールが、何かに吹っ切れたかの如く別人の様に語り訴える。盲目的な絶望の中、惨めな日々の連なる己の生涯をくまなく振り返り、何故今迄この恐ろしい重荷に堪え得たのか、その先に雲間の星の様な期待が僅かに見えていたからではなかったか…
その幻想的な色彩の内に語られる誤った生活機構に対する社会的憤怒の感情と鋭い抗議が訴えかけてくる。その根本的な、苦しい労働も、恐ろしい大寒も、厳しい生活の結果身に付いた野生も、遂にマカールの内に消せなかった「期待」。それが特に最後の裁きの場面に集約される。
マカールの夢というより、必ず来るべき社会的公平の勝利を象徴する著者自身の「夢」と云われる。他作でも苦渋な運命にも打ちひしがれる事無く、常に正義と自由を渇望して止まない人々の姿に、60~70年代のロシア民主主義文学の伝統が受け継がれている。当時知識人に普及していたトルストイの無抵抗主義に対する痛烈な批判も同じ信条に基ずくもの。
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