2017年4月24日 (月)

本315・・静かなドン

静かなドン・・ミハイル・ショーロホフ著

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主人公グリゴーリー・メレホフの辿った悲劇を中心とし、第一次大戦前から、戦争・革命を経て、国内戦に到る動乱の時代を背景に、黒海沿岸のドン地方のコサックの生活と階級闘争の歴史を描いた長編小説。
コサックとは・・トルコ語で「自由人」を意味するが、重税や賦役を逃れて、南部の川の流域に住み着いた農奴や都会下層民が、土着民と結合し生み出された特殊な階層を指す。
彼等が次第に勢力を得てロシア南部を支配し、ツァーリ(皇帝)政府がそれを手懐けた事で親衛隊気取りとなり、小ロシア人や一般農民を蔑視し出し、排他的気風を持つコサック階級の間でも分裂は起こり対立した。
グリゴーリーは、その嵐に巻き込まれ自己の道を見失った(見出し得なかった)。思想を持たぬ人間の悲劇である。彼が革命と共に赤軍(ボリシェヴィキ)に加わった理由は、オーストリーの戦争で敵兵を初めて殺して以来の戦争否定感と、友人から吹き込まれた政府への憎悪であった。その彼が赤軍の戦線から離脱したのは、上長の傲慢さへの反感や、白軍捕虜に対する無裁判虐殺への憤り、赤軍不良分子の暴行略奪行為への不信感からである。
形勢が悪くなり、彼はいつしか人民からも白い目で見られ、破滅に向かって突き進んで行く。戦乱の中で彼の行動を決定するのは、思想ではなく感情であった。赤軍の正しさを感じはしても理解し認め得なかったため、目先の現象に反感や懐疑を覚え、思想的動揺を味わう。たとえ個々の行動が正当であっても、結果的に人民の幸福に反する重大な過ちを犯した。それは個人的な生活に於いてもそうであった。人妻との逃亡、妻の絶望からの自殺。戦線で父・兄を喪い、自然への回帰や農民としての暮らしを欲しながら、反乱軍として追われる日々。逃避行の内に人妻も喪い、郷愁に駆られ、やがて一人残された幼い息子の下へ・・

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2017年1月12日 (木)

絵画404・・歌川広重

歌川広重(1797~1858)

江戸時代末期の浮世絵師。本姓が安藤。歌川豊広に師事。役者絵→美人画→風景画→花鳥図。「東海道五十三次」、「江戸百景」等。欧米では、大胆な構図と共に広重ブルーが名高く、19世紀後半の印象派やアール・ヌーヴォーに影響多く、ジャポニズムを生む。
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2016年12月19日 (月)

絵画403・・葛飾北斎

葛飾北斎(1760~1849)

江戸時代後期の浮世絵師。「富岳三十六景」等。森羅万象を描き、生涯3万点を超える。版画や肉筆にも傑出していたが、その描写力で挿絵芸術等に新機軸を見出す。後のゴッホや印象派画壇、工芸、音楽に多大な影響。
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2016年11月25日 (金)

本314・・女の学校・ロベール

女の学校・ロベール・・アンドレ・ジイド著

Img_1「女の学校」・・人間の「誠実さ」を追求している。外観的には極めて中庸を得た好紳士である夫ロベールの中にある虚栄心と偽善を、時代に即してではあるが些かの仮借も無く抉り出して批判するエヴリーヌ。少女の様なままロベールの物腰の柔らかさや宗教に因った知性に憧れ結婚するも、時を待たずロベールの上辺だけの言葉や態度に気付き幻滅していく。夫の戦争時の立ち回り方(参戦からひたすら逃げ、なお叙勲)が決定的となり、自らは戦地に程近い病院の看護へと旅立ちそこで死亡。娘に日記を残して。彼女は「誠実さ」が具象化された純粋型である。
「ロベール」・・「女の学校」の続編となる。エヴリーヌの夫ロベールの、彼女の死後発表された日記(自分の許可無しに出版された)に対する、徒に長い弁明乃至は抗議である。利己心のみのロベールは彼女の心模様の変化を認めようとせず、宗教や因襲から来る夫への従属を求め続ける。一見納得のいくような彼の言葉も、結局エヴリーヌの非難を裏書きする様な結果になっている。
・・二人の間に出来た娘(ジュヌヴィエーヴ)が、両親の関係を批判したり、新しい恋愛観や結婚観を提出したりしているが、この作品(「ジュヌヴィエーヴ」という未完の告白)もまた、虚偽なもの、圧政的なもの、因襲的なものに対する反抗の書である。母は自由を願う事に留まり、娘はそれを奪い取ろうとしてる。

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2016年11月14日 (月)

本313・・ジャン・クリストフ

ジャン・クリストフ・・ロマン・ローラン著

51ryc9fs7l音楽家の血筋を引く主人公ジャン・クリストフは、ドイツのライン河畔の小都市で生誕。クリストフにはベートーベンの印象が強いと云われる。音楽と自然への目覚め、貧困と屈辱による挫折、友情と初恋の経験もし、母方の叔父ゴットフリートに支えられながら、伝統的偶像に反対し、崇高を目指す青年に成長して行く。
真っ直ぐで激情型の彼は祖国の偏狭な空気に窒息しかけ、傷害事件に巻き込まれてパリに逃れる。
だが、自由である筈の大都会パリに巣食う知識人の陳腐で卑劣な言動と衝突し、自身の理想を貫くための不器用な闘争が絶え間なく続く。不安定な時代の中で、同様の使命感を持つオリヴィエ(クリストフが故郷を去る前に知り合い、自分の振る舞いで迷惑を掛けた印象的なアントワネットの弟)と出会い共同生活をする。オリヴィエはクリストフとは違い内向きの繊細な詩人だった。
時が経ち、クリストフに誘われたデモでオリヴィエは死亡。その混乱の中で殺害事件を起こしたクリストフはスイスに逃亡。オリヴィエの死を知った彼は絶望を感じ、救われた知り合いの妻との恋愛に因り山中を彷徨し神の声を聞く。そんな時、初恋の人の従姉であるイタリア人のグラチアと再会。未亡人になっていたグラチアとは彼女の事情で清い遠距離恋愛を続け、魂の支えともなっていた彼女は数年を過ぎ死亡。
その後、クリストフの計らいでグラチアの娘とオリヴィエの息子が結婚。今や大作曲家となったクリストフは既に老い、病を得て、新しい時代を夢見ながら静かな心で独り死んで行く。
・・悩みと闘いの連続のクリストフの魂は、19世紀後半から20世紀初頭に掛けて、激動する世代を自身の恥や欠点を抱えながら生き抜いた人間の精神史であり、霊的息吹に満ちた大河の流れの様である。




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2016年10月22日 (土)

本312・・ジェーン・エア

ジェーン・エア・・シャーロット・ブロンテ著

Jane1_convert_20120529004527ジェーンは孤児となり、リード夫人(義理の伯母)と子供達から冷遇される。反骨精神は強いが美人ではないジェーン。10歳で厳しいローウッド寄宿学校に入れられるが、良い教師等とも出会い忍耐と信仰を学ぶ。後に教師となり、都合8年を過ごす。
学校生活に無聊を託ち、自分の人生に挑戦するため広告を出し、ソーンフィールド館の家庭教師となる。当主ロチェスターはいかつい容貌で、気まぐれだが思慮深く奥底に暖かさと傷心を持つ。ジェーンはロチェスターとの身分を越えた恋愛を経験し結婚を申し込まれるが、式当日になって狂人の妻の存在が判明。重婚を忌避し、翌日未明に逃亡する。
路頭に迷い、生き倒れになりかけたところを牧師セント・ジョンと妹二人に救われる。共に暮らし村の教師などをし、暫くして三人が従兄姉と分かり別の伯父の遺産を分ける。セント・ジョンに、忠実な撲としてインドへの宣教に同行するため結婚を申し込まれる。彼に恋愛感情が無い事を知り苦悩するが、嵐の晩に頭の中にロチェスターの自分を呼ぶ声を聞き、翌朝彼の下に戻るため出発。
館の焼跡を見、近くの旅館主から火災状況とロチェスターの妻の死、ロチェスターの近況(火災で盲目となり片腕も失い、別の館に隠遁)を聞き、その夜訪ねる。再会した二人は互いの愛と必要性を確認し、ひっそりと結婚。2年後、ロチェスターの片目の視力が回復し、彼は同じ黒眼を持つ息子を腕に抱擁する。

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2016年10月18日 (火)

本311・・嵐が丘

嵐が丘・・エミリー・ブロンテ著

51t1zp5tdfl1765年:キャサリン・アーンショー出生。
71年:老アーンショー、リバプールから孤児を連れ帰り、ヒースクリフと名付け嵐が丘に養う。ヒースクリフ、老アーンショー以外から疎まれるが、キャサリンとは幼馴染みに。
77年:老アーンショー死す。息子ヒンドリー、妻フランセスを連れて帰宅。秋からクリスマスに掛け、キャサリン、スラシュクロス屋敷のリントン兄妹(エドガーとイザベラ)と交際開始。
78年:ヘアトン生まれ、フランセス死す。
79年:エドガーとキャサリン婚約。ヒースクリフ失踪。
83年:80年に老リントン夫妻亡き後、エドガーとキャサリン結婚し、スラシュクロス屋敷に住む。ヒースクリフ突然戻り、嵐が丘に住む。
84年:ヒースクリフ度々スラシュクロス屋敷を訪れ、イザベラを誘惑し逃亡して結婚。キャサリン脳を病む。ヒースクリフ夫妻戻り、嵐が丘に住む。キャサリン、キャシーを生み死亡。キャサリン埋葬され、ヒースクリフ墓を発く。イザベラ逃亡し、その後リントンを産む。ヒンドリー死し、ヒースクリフ嵐が丘の主人となる。
97年:イザベラ死し、リントンはエドガーに引き取られるが、その後嵐が丘へ。
1800年:キャシーが嵐が丘でリントンと再会。エドガーと家政婦(語り部)ネリー病み、キャシーとリントン親しむ。
01年:キャシー、嵐が丘で強制的にリントンと結婚させられる。エドガー死し、ヒースクリフ再びキャサリンの墓を発く。リントン死し、ヒースクリフ嵐が丘とスラシュクロス屋敷を相続。
02年:スラシュクロス屋敷を借りていたロックウッド、キャサリンの幽霊を見て去ったが、その後戻り、ネリーからヒースクリフの死の顛末を聞く(ヒースクリフ4日間断食後、不眠のまま死す)。

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2016年9月29日 (木)

本310・・谷間の百合

谷間の百合・・オノレ・ド・バルザック著

200501_lフェリックスは王統主義の名門貴族生まれだが、野心家の母に蔑ろにされ育ち、モルソーフ伯爵夫人も似たような環境を過ごした。ある舞踏会でフェリックスはモルソーフ夫人に出会い、深い意味も知らずに夫人の肩に接吻する。その時、フェリックスは20歳、夫人は29歳。
その後、フェリックスが静養で訪れた明媚な谷間のある地の近所に夫人の館が有った。再会する二人。夫人には虚弱な息子と娘が有り、夫の伯爵は病的な自己中心的人物だった。フェリックスは夫人の大きな愛に包まれ、今後の社交界での様々な心構えなどを教わる。夫人は美しい谷間の白百合だった。
パリに引き戻されたフェリックスは国王に面接する機会を与えられ、一番閉ざされた社交界にも紹介される。その成功の陰には夫人の有力者への推薦と遠くからの忠告が有った。
数年後、夫人とのプラトニックな愛のもどかしさに耐えかねたフェリックスは、ダッドレイ侯爵夫人を愛人とするに到る。その後、その関係を知ったモルソーフ夫人は、彼等が彼の地を訪れた時、自分の嫉妬と闘いながら絶望しその死を早めてしまう。
パリに帰ったフェリックスはダッドレイ夫人と別れる。彼は最早彼の地に戻らない。彼がこの物語を執筆する時、夫人より26歳も年上だったモルソーフ伯爵はまだ生きており、その娘は結婚し、息子はその前年に死亡。
フェリックスは現在、伯爵夫人ナタリイに想いを寄せ、これはこの女性への書簡に始まり、次いで彼女に過去の秘密を解き明かす一種の告白の形をとるが、亡きモルソーフ夫人への追憶の深さを知ったナタリイは、彼の愛を受け入れず、その気持ちを伝えた彼女の書簡が小説の終わりに添えられる。
全編はさながら「田園交響曲」であって、谷間は清らかな愛の情熱に相応しい静かな宗教的な舞台である。

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2016年7月23日 (土)

本309・・銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜・・宮沢賢治著

S1950953∇「よだかの星」・・実に醜いという外見故に小鳥達から有形無形のいじめを受け、その名前の故に猛禽である鷹から理不尽な改名を迫られる。名前を奪われるとは本質的存在性を犯されることであり、醜さは羽虫や甲虫に対する惨殺者という自分への嫌忌と表裏を成す。よだかの苦衷は全生物が置かれている食物連鎖という宿命への意識であり、死を決意して夜空に駆け上り燃え尽きる様は極めて純粋で悲痛であり悲劇的である。
∇「銀河鉄道の夜」・・貧しい孤独な少年が夢の中で親友と汽車の旅をする・・少年の貧しさと孤独の背後には、父親の不在、母親の病、同級生のいじめという環境ばかりでなく、存在自体に根差す苦悩や、(詩人の)本質的孤独が潜んでいる。夢の旅と云ってもそれは死者達の乗る汽車、その線路は夜の大空を銀河の流れに沿って何処までも巡って行くのであり、同行する親友は級友を救おうとして溺れたための死出の旅路にある・・少年はやがて「皆の本当の幸せ」を求めて行こうと心し、銀河の祭りの夜の河原で夢から覚める。そのイメージや象徴が様々な解釈をさせ、再び闇夜へ突き戻す。

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2016年7月 4日 (月)

本308・・旅人は死なない

旅人は死なない・・リシャール・コラス著

41zgxeabbol∇「息子の帰還」・・その昔、山奥の小さな村外れで代々暮らす農家。町で中学を終えたひとり息子は、ある娘を見掛け恋をしたことで家を出る決心をする。ある朝餉の席で両親に告げると、振り向きもせず町へ。見習い店員を始め(娘がそこの顧客)、真面目に働き娘に告白するチャンスを待ち二年を経たある日、娘は家族と婚礼衣装を整えにやって来る。呆然と過ごした一年後、店に暇を告げ寒い朝家に帰る。「ただいま!」と玄関の引き戸を開けた。父は囲炉裏の前に居り、卓袱台には朝餉が置かれ、虚ろな遠くを見詰める眼差し。その後ろで母は漬物の小皿を手に立っていた。心地よい平穏に包まれた若者だが、その沈黙は余りに深かった。若者は身を凍らせ一気に引き戸を閉めた。この振動と風によって、息子を待ち続けたが故に木乃伊となった両親は、音も無く崩れ落ちた。
∇「フェルメール熱」・・鬼子母神裏の路地にある古びた寿司屋。主人は無口だが仕事は芸術品。主人の後ろの壁にフェルメールの複製「レースを編む女」の額縁。主人が訥々と語る。この絵に魅せられて以来、倹しく暮らし15年前からフェルメール作品の原画を観る事が人生の目的になったと。時が経ち36作品の内あと6作品となる。フェルメールの描く女性は自分の至らなさに失った女性に似ていると。ある日、もう旅には出ないと言う。最後に観たかった作品「合奏」が盗まれてしまったのだ。消えた幽霊は追えない、と。
∇「叶わぬ夢」・・写真家としてNYに暮らす、由緒ある寺の末息子。ある日、長兄から「父危篤」の知らせ。父は峻厳な人で、耳掻きをしてもらった記憶しかない。父の死に目に会えず、父が自分を後継ぎとして望んでいたと現住職の兄から聞く。父の書斎で、文机の上の書類から自分宛ての封筒が。自分の写真が初めて権威ある雑誌に載せられた記事が入っていた。山道を巡礼する僧侶の写真で、逆光で撮られた姿が後光で包まれているようだった。そこに父の筆跡で「すべての夢が叶わぬわけではない」と。

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