2022年7月28日 (木)

本342…炉ばたのこおろぎ

炉ばたのこおろぎ…ディケンズ著

朴訥な運送屋のジョンは、年若く美人の妻・ちび(通称)と赤ん坊と幸せな日々を送る。片田舎の貧しいながらも暖かい炉ばたで、こおろぎたちが優しく歌う。

ある日、ジョンは仕事の帰りに、耳の悪い老人を連れて帰る。金持ちの玩具屋タクルトンとちびの友人メイの結婚式が近づく。あるパーティーでタクルトンに連れられ、ちびとその老人が親しげに話しているのを目撃。タクルトンはちびと老人は昔の恋人同士だと吹聴。ジョンの様子から老人との関係を悟られたと気付くちび。老人を殺そうとするも、妖精に姿を変えた炉ばたのこおろぎたちがちびとの幸せな日々を思い起こさせ、思いとどまる。

タクルトンとメイの結婚式当日、メイとちびがジョンの誤解を解く。老人に扮していたのは戦死していたはずのメイの恋人(エドワード)で、メイが母親の薦める金持ち老人と愛のない結婚をすると知り、どうにかしようと彼が帰って来たのだ、と。タクルトンも最終的に心を変えメイとエドワードを祝す。大団円の祝いの場でこおろぎたちがコロコロと音楽に和す。

タクルトンを雇主に持つケイレブは盲目の娘・バーサに、家の貧しさを隠し、タクルトンについても若く思いやりのある紳士でと嘘を付いてきた事で、逆に娘を悲しませる(タクルトンに恋心)など、思い遣りが裏目に出たり行き違いなどあるものの、素朴な原風景が広がる一遍。

 

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2022年6月13日 (月)

本341…ゴリオ爺さん

ゴリオ爺さん…バルザック著

1819年パリ。ヴォーケル夫人の下宿屋(陰気で、嘔吐を催す臭気に満ちた)で、みすぼらしく生気のない人々が暮らす。老嬢・偏執狂・親に認められない娘(ヴィクトリーヌ)と親代わりの夫人・怪人物(ヴォートラン)・学生(ラスティニャック)・ゴリオ爺さん(元製麺業)…

ラスティニャックは地方貴族出だが、パリで一躍名を成そうとしているものの金が無い。そこにヴォートランがつけ込んで、ヴィクトリーヌに言い寄らせ、その兄(遺産相続人)を亡き者にし旨味を吸おうとする。ラスティニャックは、従姉ボーセアン夫人の紹介で社交界に紹介され、レストオ夫人(アナスタジイ)やヌシンゲン夫人(デルフィーヌ)等と知り合いデルフィーヌの愛人となるが、二人ともゴリオ爺さんの娘であった。ヴォートランが計画の実行に移ろうとした矢先、警察の手先になった老嬢に前歴(脱獄徒刑囚)を見破られ逮捕される。ゴリオの甘やかしに因って娘二人は報恩無く育ち、散財の付けを爺さんに払わせ続け、爺さんを無一文にしその寿命を縮め、死に際にも訪う事なく最低限の支払いもしない。

ゴリオ爺さんを看取り弔ったラスティニヤックは、ここ暫くの自分の受けた様々な電撃的教訓(社交界の裏表)を反芻し、爺さんの墓地の丘から意を新たにパリに厳粛な挑戦状を投げつけ、理不尽に思いながらもデルフィーヌと別れずその晩餐に出向く。

 

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2022年6月 1日 (水)

本340…谷間の百合

谷間の百合…バルザック著

王統主義の貴族生まれのフェリックスは、里子に出され寄宿学校に入れられる。ルイ18世の舞踏会でモルソーフ(アンリエット)夫人と出会い、深い意味も知らずその露わな肩に接吻する。保養で訪れた地で、美しい谷間の百合の如き夫人を見かけ紹介のもと再会。モルソーフ家と親しくなったフェリックスだが、夫人の愛人となった訳ではなくプラトニックなものであった。数年後、夫人の引き立てでパリの国王に接する機会が与えられ、古き社交界にも紹介される。その後イギリスの奔放なダッドレイ(アラベル)夫人と出会い愛人とする。それを知ったモルソーフ夫人は、訪れたフェリックスと共にダッドレイ夫人と面会し、嫉妬と闘いながら、その死を早めてしまう。夫人が瀕死であることを知ったフェリックスは馳せ参じ、永遠の別れをする。夫人の残された手紙から、夫人の本心(母性に近い愛と言っていたが、女性として愛していた)を知り、パリに帰りダッドレイ夫人と別れる。物語はその後に想いを寄せたマネルヴィル(ナタリイ)夫人への書簡となっており、フェリックスのモルソーフ夫人への追憶の深さに因り、マネルヴィル夫人は彼の愛を受け入れず。

 

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2022年3月27日 (日)

本339…若きウェルテルの悩み

若きウェルテルの悩み…ゲーテ著

主人公ウェルテルが友人ヴィルヘルムに宛てた書簡集。ワールハイムの舞踏会で老法官の娘シャルロッテを知る。婚約者(アルベルト)がいる身である事を知りながら、彼女の美しさと豊かな感性に惹かれてしまう。アルベルトが彼女の下に来ると、苦悩に苛まれ土地を去る。新たな土地で官職に付き公務に没頭しようとするも、その卑俗さや形式主義に我慢できず退官し、元の土地に戻る。シャルロッテは既に結婚しており、以前の様な付き合いが出来ない。

旧知の作男が、自分の主人である未亡人への思いから殺人を犯す。自分の状況に重ねたウェルテルは彼を弁護しようとするが、老法官に拒絶される。これが引き金となり、ウェルテルは自殺を決意。使いをやりアルベルトから銃を借りようとする。シャルロッテは事情を察するが、夫の手前どうも出来ず銃を渡してしまう。彼女が触れた銃である事を感謝する遺書を残し、深夜12時の鐘の音と共に筆を置き自殺を決行。

作品は、ゲーテの実体験を基に書かれたものと云われる。

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2022年2月20日 (日)

本338…黄昏に眠る秋

黄昏に眠る秋…ヨハン・テオリン著

1972年秋。スェーデン南東のエーランド島、濃霧の中5歳の少年イェンスが行方不明に。その20数年後の秋、少年が履いていたサンダルの片方が、祖父の元船長イェルロフの下に届く。イェルロフは、自責の念を抱いて生きてきた次女で少年の母親ユリアに知らせ、再び孫の行方を探索し始める。

島北部を所有する資産家の息子ニルス・カント。彼は10歳で、海で溺れた弟を見殺しにし、成長と共に数々の悪事を重ねる。脱走したドイツ兵を殺し宝を奪い隠す。逃げるため乗り込んだ列車で追って来た警官ヘンリクソンを殺し、列車から飛び降りて行方を晦ます。南米に逃げ、20数年。自分では悪い事をしたと思わないニルスは望郷の念に駆られ、息子を溺愛した母親ヴェラも手立てを尽くす。

真実を追う内、打ち捨てられた無人の筈のヴェラの家に忍び込んだユリアは大怪我をし、ヘンリクソンの息子である警官レナルトに助けられる。イェルロフの仲間が殺され、彼自身も抹殺されそうになる。欲に目が眩み、カント親子を騙して邪魔する者を排除するグンナルとマルティン。そして復讐に燃えるレナルト。

深い霧の中、ニルスを殺そうと追うグンナルから逃げる途中、ニルスがイェンスと出会う。そこへレナルトの車が突っ込み、怪我をしたニルスを射殺。イェンスは巻き込まれ、車の下敷きになって死んだのだった。

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2022年2月 8日 (火)

本337… まだすべてを忘れたわけではない

まだすべてを忘れたわけではない…ウェンディ・ウォーカー著

心に深い傷を残した出来事を記憶から削除する治療は、PTSD発症の予防を目的として、一部で既に始まっている。しかし、事実に関する記憶が無くなれば、当人にとってその事実は本当に“無かったことになる”のか。それとも、感情や身体に刻み付けられた記憶はその後も残り、潜在意識の奥の奥を亡霊のようにさまよって心を蝕み続けるのか。

15歳のジェニーがレイプ被害者となり、無かった事にしようとした母親(シャーロット)によって記憶消去治療を施される。半年後にジェニーが自殺を図り、精神科医フォレスターと共に記憶を取り戻し事実と正面から向かい合おうとする。

シャーロットは夫(トム)の上司と不倫。トムは親の影響で自己意識が低いが、事件後家族を守ろうと懸命に犯人に辿り着こうとする。フォレスターも12歳でレイプされ、親が無かった事にしたため心の奥にずっと孤独を抱えており、人を引き付けるのに巧みな元患者(グレン)にその過去を打ち明けてしまっていた。グレンがフォレスターを離すまいと、フォレスターの息子を襲おうとするが偶然にもジェニーを襲ったのだ。

フォレスターはジェニーに残された傷が自分の時と同じだったため真犯人に気付くが警察には知らせず、唯一自分が治せなかった患者グレンに会い、ある女性の首吊り自殺が自分の心に今も良心の呵責として残り忘れられないと話し、「君が何をしようと、君が私にとって必要な存在になる事は絶対にない。」と告げる。

グレンは首吊り自殺をし、ジェニー一家は治癒し家族を取り戻す。

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2021年12月 8日 (水)

本336…小さな故意の物語

小さな故意の物語…東野圭吾著

親友(達也)が死んだ。枯葉のように校舎の屋上からひらひら落ちて…

自殺説に流れそうになる中、動機が無いと俺(良)は思った。幾つかの目撃情報。

恋文を晒された恨みで、眩しい陽射しの中 別棟から鏡を向けた後輩女子。

公認の恋人同士だった達也と洋子。 彼の死後付き合いだした良と洋子。

一年後…達也の母親からの連絡で、あの時彼は屋上で待ち合わせを。 

屋上の縁を歩いていた時、階段室の影にいた洋子の「ねぇあれは何?」の言葉で達也はバランスを崩し転落。

人も羨む恋人同士だったが、他所(良)に気が向き、段々と重荷になって…

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2021年11月17日 (水)

本335…ある農夫の死

ある農夫の死…エミール・ゾラ著

地方にポツンと取り残されたような小さな集落に生まれ、15里ほど離れた町に出かけたのもただ一度きりのラクールは、日々暮らせる糧を得るためひたすら小さな農地を耕しそこで年老いた。樫の木のようにごつごつと背が高く、皮膚は太陽に焼かれてひび割れ、年と共に寡黙になり地面と向き合ってきたラクールは、生まれて初めて体調を崩し床から離れられなくなった。四方を深い森に囲まれた貧しい村で、医者を呼ぶにも往復12里もあり、子供たちの収穫作業を休ませられず金もかかるため寝付いていたが、数日後に静かに死ぬ。

彼は最後の息をまっすぐ前に、広大な田園のなかへと吐き終えていた。自分が死んだとしてもそれは自分と神様だけの問題だと、ひっそりと運命を甘受する動物たちのように、隣人を煩わせることなく、自分のちょっとした仕事をたった一人で成し終えたのだ。おそらくは子供たちに遺体の処理で面倒をかけることを残念に思いながら。

埋葬されたラクール。彼と土とは50年以上も前からの付き合いで、その時から最後には土が彼を引き取ってくれるという土との約束はできていた。心地よい休息。若い者もやがて順番に死んでゆくことになるが、先に眠っている者を煩わせはしまい。太陽に照らされた静かな死、穏やかな田園に守られた永遠の眠りである。

ゾラは「人はどのように死ぬか」という総題で、貴族・ブルジョア・小市民・プロレタリア・農民の死を描き、死を迎える人の意識や周囲の反応、死をめぐる手続きや儀式などを社会階層ごとに描き分け、同じ自然現象であるはずの死がその人の階層によってどれほど異なった様相を見せるかを示したいわば社会学的な作品だが、他の四篇がかなり皮肉な調子で描かれているのに対して、自然と一体になった生死のありようを描くこの「ある農夫の死」は、人間本来のあり方を示唆しているかのよう。

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2021年9月24日 (金)

本334…父と子

父と子…イワン・ツルゲーネフ著

1830~40年代は、12月党(デカブリスト)の反乱失敗に続くニコライ1世の反動政治の暗黒時代。デカブリストの後継者たちは理想主義哲学を信奉し、物質的価値に対する精神的価値の優位を唱えるも抽象論にとどまり、その後、形而上学や美学よりも歴史や政治問題に場を譲る…父の世代。

50~60年代は、ニコライ1世の弾圧政治が終わり、自由主義的なアレクサンドル2世が即位し国民精神が高揚して行動へと移る…子の世代。

観念の世代と行動の世代の分裂が顕著になり、貴族階級と雑階級の不和を生む。新世代は思想の独立と自由のために権威を否定し、理性と論理と有用性に基づく「考えるニヒリスト」を理想とする。本書のバザーロフがそれであり、科学を神に置き換えた無神論者であり唯物論者。破壊を建設の第一歩とするバザーロフの中に、当時の急進的インテリゲンチャの姿がある。

農奴解放前後の、古い貴族文化と新しい民主的文化の思想的相克を描く。

 

 

 

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2021年8月31日 (火)

本333…二都物語

二都物語…チャールズ・ディケンズ著

爵位と遺産を退けフランスから渡英したダーネイ(本名エヴレモンド)、人生に絶望した放蕩無頼の弁護士カートン。無実の罪(エヴレモンド兄弟の悪行の秘密を隠すため)で長年投獄され精神も病んだマネット医師とその娘ルーシー。風貌の似た青年二人はルーシーに思いを寄せる。パリでは革命の炎が燃え上がろうとしている。貧富や身分の格差激しく、暴政と動乱の時代の荒波に翻弄される人々…

管財人ローリーの惜しみない手助けでマネットとルーシーはロンドンへ。過去の父と伯父等の悪逆卑劣さもマネット医師の投獄理由も知らず、ダーネイはルーシーと結婚。潔く祝福するカートン。雇い主エヴレモンド一族に家族(農奴)を無残に殺され恨み骨髄のドファルジュ夫人。渡仏したダーネイは貴族の一員として容赦なく囚われ死刑判決。マネットやルーシーとその子供まで陥れ命を絶やさんとする奸計に、カートンはダーネイに入れ替わり断頭台へ…

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