2024年2月23日 (金)

本365…いともありふれた殺人

いともありふれた殺人…P・D・ジェイムズ著

古いアパートの鍵を不動産屋から借りる初老の男ゲイブリエル。16年前のあの時の部屋。

ゲイブリエルは、34歳の人妻と19歳の少年の逢引きを毎週夜向かいのビル(勤める会社)から覗き見していた。7週間後、女は殺され少年が捕まるが、ゲイブリエルは彼が訪ねて来た時部屋に入れず帰った事で、少年の無実を知っていた。必要となったら少年の為に出頭しようとし裁判も追うが、自分が毎週夜に会社に内緒で上司のポルノを読み耽っていた後ろめたさと保身の為最後まで名乗り出ず、少年は死刑に。

あの夜…胸を高鳴らせつつ、少年の合図のノックをしてゲイブリエルは女の部屋に入り込み、素早く千枚通しを彼女の喉に。その後レイプ…

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2024年2月 9日 (金)

本364…胸像たちの晩餐

胸像たちの晩餐…ガストン・ルルー著

いつもの席で船乗り達が奇談怪談をしあうが、老錬の船長ミシェルがやっと重い腰を上げ自分が片腕になったおぞましい経緯を話し始める。

別荘に滞在していたミシェルは、或る空き家の筈の隣家でパーティーの様なものが行われていることに気付く。騒がしいのに妙な機械音のみで客達の姿は見えず、1人の美女に気を引かれるが、次に見かけたのは1年後だった。そこの主人がかつての友人ジェラール大佐と知り、訪ねようとするが美しい夫人に追い返される。その夜ミシェルは強引にパーティーに押し掛け…

客船の難破で12人の男(1人は医者)と1人の美女が止む無く筏生活を始めるが、1週間後には皆餓死寸前となり、了解のもと次々に片腕片足と…

四肢の無いいざり達。彼等は漂流中に食した味が忘れられず、生還後も1年に1度可能な限りに晩餐会を開いていたのだ。

パーティーの夜、ミシェルは彼らに襲われ、クロロフォルムを嗅がされ片腕を…

 

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2024年1月21日 (日)

本363…特別料理

特別料理…スタンリイ・エリン著

コステインは上司ラフラーに味が判ると見込まれ、隠れ家的レストランのスビローズへ伴われる。客は常連のみでほぼ会員制。メニューは無く皆同一の日替わりメニューを食する。どれも味は絶品だが、皆不定期に出される「特別料理」目当てで通う。

或る日待ちに待った「特別料理」が提供され、アミルスタン羊を食材にしたもので、えも言われぬ極上の味を堪能。その一方で、その日10年もの常連の姿が無く残念だろうにと思いやる。美食に因り2人共少しずつ肉が付き始める。

店のウェイターが暴漢に絡まれていたところを2人が助けたことで、ウェイターからシェフに招かれても絶対厨房に入らぬよう忠告される。上司がずっと店の厨房見学を希望して断られ続けていたものだが、或る時、シェフの許しが出て我慢できず上司が厨房へ…

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2024年1月 5日 (金)

本362…まだすべてを忘れたわけではない

まだすべてを忘れたわけではない…W・ウォーカー著

コネチカット州の小さな町。あるパーティーで酒に酔った15歳のジェニーが森の中でレイプされ、トラウマに悩む事を恐れた母親が事件直後に記憶消去の最新治療を受けさせる。それは同時に犯人に繋がる記憶をも消し去った。その後ジェニーが自殺を図ったことで、町の精神科医アランが改めて記憶の痕跡を辿ると、閉鎖的な町と家族の深層、事件の真相が顕れてくる。

親の影響で自己肯定感が低く妻に頭が上がらぬジェニーの父親トム、養父と関係を持つ過去が有りトムの上司ボブと奔放な不倫を続ける母シャーロット。同じパーティーでドラッグを買おうとし、あわや疑われる立場になったアランの息子ジェイソン。息子を守ろうと知り得た情報で駆け引きをするアラン。彼の元患者で唯一救えなかった境界性パーソナリティー障害のグレンが今回の犯人。

グレンは人の話を引き出す事に長けており、過去にアランも自身のトラウマ(小柄だった12歳の時に、17歳の少年にレイプされ背中に消えないひっかき傷を印されたが、親にレイプを隠されトラウマとなる)を漏らしてしまっていた。グレンはその後もアランに執着し続けたが、代わりにジェイソンに狙いを付けた事(アランの事件をなぞったものだが、行き違いでジェニーを襲う)に気付いたアランは、グレンを訪れ自殺に追い込む…アランの事件とジェニーのとでは性別も年齢も違い、自分を取り込もうとした試みに永遠に失敗したのだと。

ジェニーは記憶を取り戻し、両親もそれぞれの傷と向き合う。

 

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2023年12月 9日 (土)

本361…オリジナル・サイコ

オリジナル・サイコ…ハロルド・シェクター著

R・ブロックの原作をヒッチコックが映画化した「サイコ」、「羊たちの沈黙」、「悪魔のいけにえ」等に影響を与えた事件で、心理ノンフィクション。

1957年、ウィスコンシン州プレインフィールドに住んでいた独身のおとなしい小男、エド・ゲインの犯罪。中年婦人の惨殺、死体の解体、墓荒らし、ネクロフィリア、カニバリズム(本人否定)。

母への愛と憎しみ…有能な(?)彼女を敬う事のみ教育され、母の死まで女性との接触の仕方を知らず、その死後ひたすら孤独に陥ったゲインの妄執は、母親を誘拐し損壊し殺すことだった。

捕らわれてからずっと州立の精神病院で過ごし、幾多の鑑定を経るも外に出る事は無かった。

1984年、癌で他界。78歳。

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2023年11月 9日 (木)

本360…チャイルド44

チャイルド44…トム・ロブ・スミス著

スターリンの恐怖政治下にある旧ソ連。ウクライナ州の或る寒村に住む極貧の一家が「ありふれた悲劇」に見舞われる。貴重な食糧源である猫を捕らえに入った森で、兄弟の兄の方が逆に「食料」として見知らぬ男に捕らえられ攫われてしまう。

20年後、モスクワで遊んでいた別の兄弟の弟が行方不明となり殺されるが、子供の両親の殺人だという声は届かず事故として処理される。国家から不要と断じられた者達(知的障害者・レイプ犯等)の事実は関係無くいとも簡単に捕縛され処刑されるのだ。ここで国家保安省の捜査官レオが登場するが、彼の任務は事件の捜査ではなく両親に主張を取り下げさせる事。何故なら、偉大な革命を成し遂げた理想の国家ソ連には「犯罪は存在しない」からだ。

そんなレオが自ら見舞われた不運を契機に、今までを改め、自分のみならず妻や両親の命をも賭して、連続殺人事件の捜査に乗り出し、苦難の末、思いもよらなかった連続殺人犯と対決するまでの一途な姿を描いている。

実際の事件(A・チカチーロ事件)をモチーフにしたもので、何故チカチーロは12年も逃げ通せたのか。ソ連のシステムが彼の存在を認めようとせず、その偏頗な考えが犯人逮捕の幾多の機会を妨げたからだ。

突然攫われてしまった兄に見捨てられたと決めつけ、その兄に振り向いて欲しさに44人もの子供を猟奇的に殺した狂気の…

 

 

 

 

 

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2023年10月15日 (日)

本359…惜別の賦

惜別の賦…ロバート・ゴダード著

物語は今日、昨日、明日の三部構成になっており、主人公クリスが過去の事件のため、或る女から大金を要求されるところから始まる。過去の経緯が、大部分を占める「昨日」の部分で回想される。事件は1947年と1981年。81年の或る日、かつての幼馴染で、47年の事件(クリスの大伯父殺し)以後疎遠になっていたニッキーが、突然訪ねてきてその夜に自殺する。ニッキーは、47年の事件の犯人の一人として死刑になった男(マイケル)の息子であり、彼の自殺をきっかけに、47年に関する不審な出来事が次々とクリス一族を襲う。

ゴールドラッシュで一山当てた大伯父。彼の帰国がイギリスの小売商一家(大伯父の妹でクリスの祖母)に大きな変化を齎し起こる事件。国を出る前の想い人を家族ごと引き取り暮らし、その息子マイケルを相続人とする大伯父。それを快く思わぬ妹一家。

マイケルの死後、財産を相続したクリスの祖母。父マイケルの無実を信じるも晴らせず、立ち直れず自滅したニッキー。養父が原因でとうの昔に家を出てしまった妹ミケーラ…

長き時を渡り繰り返されてきた、大金を巡る欺瞞や企み、隠された殺人等。翻弄され続けるクリス。

…誰の復讐が叶ったか。

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2023年9月27日 (水)

本358…どん底

どん底…マクシム・ゴーリキー著

社会のどん底に蠢く下層階級の人々が、現実の苦しい生活に圧倒されつつもこれに屈することなく、各自が人間としての自己の権利を自覚・主張し、新たな光明と自由を希求して来るべき新生活を待望する姿が描かれる。

アル中の役者、泥棒のペーペル、娼婦ナースチャ、昔の夢しか生き甲斐を見出せない男爵、虚偽の哲学を説く巡礼ルカ、その気休めの言葉に縋る瀕死のアンナ…木賃宿には、日々の生活に打ちひしがれ、希望を失ったこれらの人々が、何とか在り得べき生活を求めて止まず…

著者は革命運動を続け、1990年頃からロシア社会民主党の一員として反政府活動に従事し、逮捕・投獄が繰り返されたが、1901年にクリミアで療養を許され、ここで寄稿された作品。映画化も。

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2023年9月17日 (日)

本357…マカールの夢

マカールの夢…ウラジミール・コロレンコ著

ほら吹きで飲んだくれの主人公マカール。或る日、冷たい吹雪の荒野に力尽き倒れ死んだマカールは、善良な僧であったイワンに連れられ主の下へ。始めは自分の行ってきた事に言い訳しながらも恥じ入りしどろもどろだったマカールが、何かに吹っ切れたかの如く別人の様に語り訴える。盲目的な絶望の中、惨めな日々の連なる己の生涯をくまなく振り返り、何故今迄この恐ろしい重荷に堪え得たのか、その先に雲間の星の様な期待が僅かに見えていたからではなかったか…

その幻想的な色彩の内に語られる誤った生活機構に対する社会的憤怒の感情と鋭い抗議が訴えかけてくる。その根本的な、苦しい労働も、恐ろしい大寒も、厳しい生活の結果身に付いた野生も、遂にマカールの内に消せなかった「期待」。それが特に最後の裁きの場面に集約される。

マカールの夢というより、必ず来るべき社会的公平の勝利を象徴する著者自身の「夢」と云われる。他作でも苦渋な運命にも打ちひしがれる事無く、常に正義と自由を渇望して止まない人々の姿に、60~70年代のロシア民主主義文学の伝統が受け継がれている。当時知識人に普及していたトルストイの無抵抗主義に対する痛烈な批判も同じ信条に基ずくもの。

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2023年8月26日 (土)

本356…六号病棟

六号病棟…アントン・チェーホフ著

田舎町の精神病院で、院長を務めるアンドレイ。知性と誠実さの人だが、気弱さと厭世の受身思想から院内の劣悪な環境等の改革は出来ず。周囲は俗悪な輩ばかりでまともな会話すら出来なかったが、隔離室の六号病棟に、没落貴族の末裔のイワン(持ち前の神経質とお臆病さが高じて、強迫神経症)を知り、毎日の様に訪ねては観念的な哲学談義をする。

その内、院長自身が精神異常だから、一人の患者と延々と訳の分からない会話をしているのだと病院中の噂になる。アンドレイは療養と称した気の染まぬ旅行に連れ出される。帰ってみるとそこに職は無く、自分の補佐をしていた男が後釜に。彼に謀られて六号病棟に押し込められ、余りの環境に抗議した為番人に殴りつけられ…程なくして卒中で落命する。

自分とは、生きるとは、社会のあり方とは、正気と狂気の違いとは…「人間の安らぎと満足とは、外部になく自身の内部にある」としてきたアンドレイが、閉じ込められた不自由さに狼狽え、自身の思想の敗北を知る…蝕まれてゆく医師の正論は、あたかも当時の絶望的な世相を暗示しているかの如くである。

著者も医師でその観点から描かれている。

 

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