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2008年12月

2008年12月18日 (木)

本21・・バスク、真夏の死

バスク、真夏の死・・トレヴェニアン著

51lz1cjs0jl__sx230_ある秋の朝、45歳を迎えたジャンは、20年前に過ごしたバスク地方の小さな町サリーを訪ね、回想。青臭く鈍感な、自信過剰で自己中心的な25歳の若者だったと、今、苦い思いで噛みしめる。

ジャンはバスク出身、パリで医学を勉強し、ある挫折(マドモアゼル・Mへの精神治療に因り、彼女は職員等から強姦される)から、サリーの小さな診療所で働き出す。

パリ住まいだったヒロイン(カーチャ)家族が、突然サリーに移り住む。人の訪れない屋敷に、カーチャと双子の弟ポール、変わり者の学者の父親が住み、庭には時折りカーチャの眼の端を過ぎる妖精。

ある過去(ポールの友人に強姦されて以来精神を病み、別人のカーチャとなり平衡を保つが、恋すると相手を殺さずに居られず、その記憶は残らない。)を負うヒロインとの出逢いから別れに至る数日間の出来事。

人は流れる時間の中で、どのように自分で有り続け、どのように悲しみや痛みを引き受け、今を生き続けるのか。ヒロインの痛みを抱え、その後の20年を生きた男の人生。彼の抱える痛みとはどれ程のものなのか。足下が崩れ去っていくような不安と、底知れぬ闇を覗き込んだような悲しさが、カーチャの家族のものであり、主人公のものである。

自分でいられない少女がカーチャとなり、再び・・汚されない「男」のポールになるため殺し、疲れきった父は自殺し、カーチャも・・

「私は彼女を抱え、腕の中で身体を優しく揺すってやった。涙の一滴が私の口の端に落ちてきた。その温かく塩辛い味を、今でも舌に感じることが出来る」と。

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2008年12月15日 (月)

本20・・地下室の手記

地下室の手記・・フョードル・M・ドストエフスキー著

201009ジッド云わく「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」。

20世紀初頭(これが書かれた頃)、ドストエフスキーに訪れた突然の転機。人道主義から実存主義へ。その思想弾圧により、転向を余儀なくされた知識人に深刻な影響を与える。チェルヌイシェフスキーの「何をなすべきか?」・・女性解放、革命家のモラル、ユートピア的な未来社会を描き、各人が自分の合理的な欲望を追求することによって調和と幸福が得られる、への反論として書かれたと云われる。

主人公は、この西欧合理主義・空想的社会主義を仇敵として愚弄する。ドストエフスキーの言う「ロシア人の大多数である人間を描き、その醜悪で悲劇的な面を暴露した」を、醜悪さを自覚した地下室の逆説家が、その哲学の重みを体現。現実の苦痛の叫びが、逆説のテーゼで快楽に変わり得ると。自身の本性に反した理想(他人への愛と犠牲)を追求するも不可だと苦悩し、この状態を「罪」と名付ける。苦悩と犠牲との釣り合いが、地上的な均衡を生み出すのだと。絶望の中でもなお「生」を営み、「生」を享楽しようとする人間の業とは。主人公云わく・・病んだ人間であり、意地悪く人好きもせず、中等の役人で生活の糧を得るためだけに働いたが、遠戚が残してくれた遺産で仕事を辞め、地下室に篭城。自意識のみ強く、精神的な腐敗・あるべき環境の欠如・生きた生活との絶縁。地下室で養われた虚栄に満ちた敵意、いかに人生を無駄に葬ったか・・

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2008年12月 8日 (月)

本19・・国境の南、太陽の西

国境の南、太陽の西・・村上春樹著

4062060817中産階級の一人っ子として生まれたハジメは5年生の時、同じ一人っ子の島本さんと親しくなる。彼女は左足を引きずる転校生で、タフで自覚的。よく彼女の家で レコードを聴いた。ナット・キング・コールの「プリテンド」・・辛い時には幸せなフリをしよう、それはそんなに難しいことじゃない。そして「国境の南」。中学から別々に。高校2年でイズミというガールフレンドが出来たが、心を開けない。イズミの従姉の大学生と出会い、激しく惹かれあい2ヶ月間愛しもせず抱き合う。イズミに知られ後悔はするが、身勝手で残酷になれるのは自身の傾向かと。大学から出版社に就職、努力はしたが退屈。30歳になるまでの12年間を、失望と孤独と沈黙の内に過ごす。28歳、島本さんに似た女性を見かけ追いかける。30歳、旅先で知り合った有紀子と結婚。ジャズを流すバーを開き順調に。イズミから従姉の死亡通知。古い同級生から、変わってしまったイズミの消息を聞く。秋の終りの雨の夜、店に島本さんが現れ、足は手術し治り働いた事はないと。海に流れ込む綺麗な川を訊ね、2人で川へ。去年亡くしたという女の子の灰を流す。空港へ戻る途中、彼女が急病になり落ち着くものの訳は訊くなと。ハジメは今までの年月の空白を埋めたいと、彼女はその歳月を空白にしてしまいたいと。彼女が現れなくなり、人生が再び失われたと思う。半年後の雨の夜現れた時、ハジメは告げる。「しばらく・・と言うが、待っている方には長さが計れない。たぶん・・と言うが、重さが量れない言葉だ」と。レコードをプレゼントされ、2人で別荘へ。「国境の南」を聴く。彼女が「太陽の西」について語る・・シベリアの農夫が荒野に1人で住み、そこには東西南北に地平線。ある日彼の中で何かが死んでしまい、畑を耕す事を止め、西に向かって憑かれたように歩き続け、やがて倒れ死んでしまうのだと。求める彼に、全部取るか何も取らないかで中間はないと。全ての秘密を教えてくれと頼むと、明日話すと。翌朝、彼女は消えていた。痕跡も無く、レコードさえも。別荘への道中、彼女が死ぬ積りでいた事に気付く。彼女は、全てを呑み込んだまま姿を消したのだと。国境の南には「たぶん」が存在するかもしれないが、太陽の西には存在しないのだ。時間と共に不在と存在が曖昧に、現実感が遠のいて行く。ある日、島本さんに似た人を見掛けるが見失う。眩暈に襲われ眼を上げると、タクシーの窓にイズミの顔。その顔に果てしない空白。自身を取り囲んでいた島本さんの幻影と残響が、そして自分の中の何かが、音も無く決定的に途絶えてしまった。自分の中の致命的な欠落が、飢えと渇きを齎し、これからもそれに苛まれ続けていく・・

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2008年12月 4日 (木)

機織り・・その22

08091432_0055枚で3セット(+無地1本)その2の③

桜の花弁を藤色の暈しで。松葉、銀杏・楓・萩の葉を散らす。春と秋の両方を盛り込む。

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2008年12月 1日 (月)

本18・・Blues(ブルース)

Blues(ブルース)・・リシャール・ボーランジェ著

Bohringer_blues_s略歴・・1942年フランスのムラン生まれ。俳優・脚本家・映画監督・歌手。「ディーバ」「フランスの思い出」「コックと泥棒、その妻と愛人」・・「野生の夜に」のロマーヌは娘。その幼少時代、アルコールとヘロイン、フランスの国民的人気俳優のエッセイ。自伝でも小説でもない一つの軌跡。

バーの奥で飲んでいた時、思い出が暗がりから出てきて短刀のように突く。希望もなく心は引き裂かれ、バーにしがみつく。誰もいない朝、冬は朝でもまだ夜だった。

ある種の人間には決して解からない事・・心の傷や、クレッソンが生える流水溝、空が暗くなる時の青い影。太陽が沈む時、線路の土手に座り列車を待つ。ズタズタにされて頭から死の花が咲き出し・・

雨が降っているとあまり不幸ではない。過去の匂い、全てが無駄に終わる孤独な日。また人生に立ち戻れるのか。脱色されたような生活、黄金の日々を思い出す、震える影。

血の色をした鳥、憎しみの影が背中に喰らいつき、脳が血しぶきを上げ、サタンをも震えさせる笑い声を上げて。妄想と恐怖、精神を貪り食って。

同じブルースを分かち合った仲間達、絶望が今は失望だったことを知った。失望は生活をブルーに。

退屈しのぎでなく、いつも情熱に駆られ飲んだ。寝るとき目覚める時、お前の一撃を喰らうと頭のゼンマイが辺りに散る。本能とその合図・法則・多様性に取り組み、皮肉が齎される。

人生とは海辺の淫売屋。記憶と、もがきながら復活する夜。ネオン煌く青い花の夜、砕け散る夜。人生は粘土、未完成の彫刻。

詩人達が何故不幸なのか。彼等は見えないものを文にするのが仕事だから。彼等の恋愛の仕方は神秘的で、上手くいかないことが多いから。彼等は、その運命の痕跡から人類の敗北のサインを嗅ぎ取る。その動きを加速し、自ら破滅の道を辿る。悲しみの速度より速く生きようと。

苦しみは、神経の流れに沿って走るカヌーのようなもの・・

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