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2009年9月

2009年9月30日 (水)

映画81・・おくりびと

おくりびと(2008・日本)

Okupari監督・滝田洋二郎、出演・本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子・・

ひょんなことから納棺師となった男が、特殊な仕事に戸惑いながら次第にその儀式に大きな意義を見出す姿と、故人を見送る際の様々な人間ドラマを描く。

チェロ奏者の大悟(本木)は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで生活する道を諦め、妻の美香(広末)を伴い故郷の山形へ帰る。さっそく職探しを始めた大悟は、「旅のお手伝い」という求人広告を見て面接へ。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、旅立ちをお手伝いする「納棺師」というものだった。社長の佐々木(山崎)に半ば強引に採用されてしまう大悟。世間の目も気になり、美香にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める。それを知った美香は、初め納棺師という職業に理解を持てず反発するが、夫の仕事ぶりを見てから寄り添って行こうと。

幼い頃父親に捨てられ母親に苦労して育てられた大悟は、父親の死の知らせに戸惑うが、佐々木等の説得で妊娠中の妻と共に老人ホームで死去した父親のもとに向かう。大悟は、30年振りに対面した父の手の中にあった、父親との僅かな思い出の「石文(いしぶみ)」を見出す・・堪えきれずに嗚咽する大悟の涙を美香がハンカチで拭く。父の納棺を慎ましく行う大悟とそれを見守る美香。

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2009年9月28日 (月)

本64・・メリメ怪奇小説選

メリメ怪奇小説選・・プロスペル・メリメ著

51pqcva1yl__sx230_「ドン・ファン異聞」・・一生を放蕩無頼に送った例のドン・ファンとは別に、ある奇怪な出来事を転機に、半生を烈しい改悛に生きたもう一人のドン・ファンがいたとする。

親の教育から離れた途端、破戒無残の不信者になっていたドン・ファンが、由緒正しい貴族の生まれでありながら、豪放洒脱な友人に薫陶され放蕩と不信心に傾いて行くが・・夢現に、戦さで亡くした上官や友または無頼に手に掛けた人々が現れたり、己の生々しい葬列を見ることで、送ってきた半生に慙愧し悔い改めるという筋書きで、両親亡き後の莫大な遺産を全て手放し修道院で生涯を閉じる。

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2009年9月24日 (木)

映画80・・ドクトル・ジバゴ

ドクトル・ジバゴ(1965・アメリカ)

51f4svsool原作・ボリス・パステルナーク、監督・デヴィッド・リーン、出演・オマー・シャリフ、ジュリー・クリスティ、アレック・ギネス・・

ロシア革命を背景に1人の男の生涯を描いた4時間近くの文芸作品。

19世紀末のロシア。ユーリー・ジバゴ(シャリフ)は、医学の勉強を続け詩人としても知られる。幼い頃両親を喪い、科学者グロメーコに引き取られた彼は、その家の娘トーニャと婚約。そのパーティーの日、近所の仕立屋の娘ラーラ(クリスティ)は、母親の愛人の弁護士コマロフスキーから関係を強要され、逃れるため発砲事件を。彼女は帝政打倒の革命に情熱を燃やす学生パーシャを愛していた。1914年、ロシアは第1次大戦に突入、ジバゴは医師として従軍。戦場で看護婦として働くラーラに再会、彼女がパーシャと結婚したと知り、自分も家庭を持っていたがラーラへの愛を隠せない。内戦が激しく、ジバゴは故郷へ帰るが革命軍の下でモスクワは飢えと物資不足。革命軍リーダーの義兄エフグラフ(ギネス)に会ったのはその頃。義兄の勧めで家族と田舎で暮らそうとし、旅の途中で白軍のスパイと間違えられ赤軍の将校に尋問される。戦死と報じられたパーシャだった。彼は変わり果て今や革命への狂信者。ラーラとの愛も再燃した田舎での生活の中、ジバゴはパルチザンに捕まる。妻に2人目の子供が出来、ラーラと別れる決心をした直後だった。脱走しラーラのもとに帰ったが、2人の関係を知った妻が子供とパリに亡命。亡命者の夫となったジバゴと追放の身のラーラの前にコマロフスキーが現れる。2人に危険が迫っていると話し身重のラーラを連れ極東に・・

8年後、ジバゴはモスクワの市街電車の中でラーラを見掛け、必死に追うが心臓病で即死。エフグラフはジバゴの葬式に現れたラーラにジバゴとの間の娘の捜索を頼まれるが、その後彼女は強制収容所で死んだとの風の便り。時が過ぎ、エフグラフはダムの建築現場で働く若い娘に出会う。ジバゴとラーラの私生児だった。彼は両親のことを話しジバゴの詩集を贈る。「彼の仕事は党には容れられなかったが、詩を愛する人は彼を忘れない。彼ほど詩を愛した者はいなかった」と。

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2009年9月22日 (火)

本63・・手紙

手紙・・サマセット・モーム著

01823343_2人種の坩堝のシンガポール。十中八九まで正当防衛と見られた殺人事件。1通の手紙の発見で新局面が展開されるが、結局1万ドルでそれを買い戻し、事件は闇へ葬られる。美人ではないが人を惹きつけるレズリーという女の恐ろしい罪。

熱帯に咲いた怪しい花、狂い咲きを強いられた憐れにも激しいイギリスの一輪の花。その「悪魔のような激情」「恐ろしい仮面」と、見た目とのギャップ。夫を欺き続け、嫉妬に狂い愛人を6発もの弾丸で射殺した後の正当防衛の主張。一見尋常そうな女の、恐るべき潜在性が強かに描かれる。

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2009年9月20日 (日)

絵画15・・イワン・クラムスコイ

イワン・クラムスコイ(1837~1887)

ロシア画家。貧しい小市民階級出身。1857年からペテルブルクアカデミーに学ぶ。「移動派」の創設メンバーで理想主義者。63年から実用芸術奨励協会・絵画教室で教鞭。19世紀後半のロシア芸術や理念展開に本質的な影響を齎す。

An_unknown_lady Christ_in_the_desert Inconsolable_grief

 

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2009年9月18日 (金)

本62・・テレーズ・デスケルウ

テレーズ・デスケルウ・・フランソワ・モーリアック著

4132b81saxl__sx230_ランド地方ボルドー。酷熱の夏と秋冬の霖雨。荒涼たる松林を吹きぬける烈風に唆されたように、何故? と問われても答えられぬ不思議な情熱に誘われて、テレーズは夫を殺して自由を得ようとするが果たせず、しかも夫に別離の願いを退けられる。情念の世界に生き、孤独と虚無の中で枯れ果てて行く女テレーズを、モーリアック独特の精緻な文体で描き、無神の世界に生きる人の心を襲う底知れぬ不安が宗教的視野で綴られる。

体面のみを重要視する周囲に、自由無く、煙草の煙の中で虚無と向き合っていたテレーズは、やっとパリでの自由に漕ぎ付ける。テレーズは思う「私が大事に思うのは、石造の建物ばかりの町でもなければ、講演会でも、美術館でもない。そこに動いている生きた林が私には大切なのだ。どんな嵐よりも猛威を振るう情熱が穴を開ける林。夜のアルジューズの松林の呻きが私の心を動かしたのは、それが人間の「呻き」としか聞こえなかったからではないのか」と。

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2009年9月15日 (火)

本61・・肉体の悪魔

肉体の悪魔・・レイモン・ラディゲ著

209402原題は「魔に憑かれて」

ラディゲは1903~1923の20年で短い生涯を閉じる(腸チフス)。

17才にして、少年期から青年期に移ろうとする、まだ固定した状態になっていない時期の魂を描き、外面的な自然描写は少なく内面的な心的風景を表現。青年期の複雑な心理を、ロマンチシズムヘの耽溺を冷徹に拒否しつつ仮借なく解剖する。第一次大戦の最中、賢くも、戦争のため放縦と無力に陥った少年と若き人妻との恋愛悲劇を、ダイヤモンドのように硬質で陰翳深い文体で描写。身籠ったマルトが出産後突然亡くなるなど、結末はともかく、自伝的作品。年上の女性との恋愛、その場合の男性のエゴイズム、そのエゴイズムの犠牲となる女性の死。

彼の早世に衝撃を受けたコクトーはその後10年阿片に溺れる。

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2009年9月14日 (月)

本60・・人間ぎらい

人間ぎらい・・モリエール著

205901劇作家で役者でもあった作者の舞台劇。

主人公のアルセストは世間知らずの純真な青年貴族であり、虚偽に満ちた社交界に激しい憤りさえ抱くが、皮肉にも社交界の悪風に染まったコケットな未亡人セリメーヌに恋してしまう。誠実であろうとするが故に俗世間との調和を失い、恋にも破れて人間ぎらいになってゆくアルセスト。散々他人を翻弄してきたセリメーヌも、八方美人の手練手管がばれ追従者達に愛想をつかされる。社交術としての阿諛追従に対しての悲喜劇を風刺的に描く。

作者の性格喜劇の随一とされる作品で自らも演じている。他に「ドン・ジュアン」(ドン・ファンのことで、フランス語ではジュアン)など。

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2009年9月13日 (日)

映画79・・ジャンヌ・ダルク

ジャンヌ・ダルク(1999・アメリカ)

12847827855601621監督・リュック・ベッソン、出演・ミラ・ジョヴォヴィッチ、ジョン・マルコヴィッチ、フェイ・ダナウェイ、ダスティン・ホフマン・・

15世紀、英仏百年戦争下のフランス。小さな農村生まれの信仰深い少女ジャンヌ(ジョヴォヴィッチ)は、英国軍に両親と姉を殺され親戚のもとに引き取られた。17才のある日、教会で神の声を聞いた彼女は、自分が神の使者であると確信。シノンの城で王太子シャルル(マルコヴィッチ)に謁見。神の使者だと語るジャンヌに、国母ヨランド・ダラゴン(ダナウェイ)と重臣等は不安を抱くが彼女に軍を率いらせる。白い甲冑に身を固めたジャンヌは、デュノア伯ジャン等が待つ前線に向かい兵士を鼓舞し見事に勝利。英国軍との激戦の最中、ジャンヌは矢に胸を貫かれるが命を取り留め英国軍を退却させる。この勝利で王太子はシャルル7世として即位。その間もジャンヌは進撃を続けたが、ヨランド等はジャンヌの人気を危惧、彼女を裏切り敵に売ろうとしたため軍は疲弊。ジャンヌは国内の敵たるブルゴ-ニュ派の黒頭巾の謎の男(ホフマン)の手中に落ち、囚われの身に。異端審問に掛けられ、一度は改悛の宣誓書を書かされたジャンヌだが、良心が打ち勝ち宣誓を拒否・・1431年ルーアンでジャンヌは火刑台に上り、19歳の生涯を閉じる。黒頭巾の男がジャンヌの良心を現す。

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2009年9月12日 (土)

本59・・愛の砂漠

愛の砂漠・・フランソワ・モーリアック著

30648880高名な医師ポール・クーレージュと、その18才になる息子サイモンが、同時に、町の有力者の愛人である未亡人マリア・クロスの虜になる。地方都市ボルドーの風土を舞台に、男と女を決定的に隔て、それぞれ孤立した人間の心の暗部を描く。物語は、愛情の豊かな結実ではなく葛藤と崩壊のみがあり、まさに砂漠の場と化して混濁し続ける。

孤独な彼等は愛を希求するが得られず不毛である。誰の恋愛も実を結ばない。女を聖女のように崇拝する医師の想い、女を堕落した人間と見下し欲望の標的としたレイモンの想い、医師を退け亡き息子の面影を宿す少年への淡い好意を抱いたマリア・クロスの想い。彼等は、本来あるべき場所に落ち着き人生を送る。医師は実直な職業人として、レイモンは放蕩者として、マリア・クロスは町の有力者の妻となって。

彼等の再会にも劇的なドラマは無く、愛憎劇さえ無く、過去の感情の残滓としてのやり取りが交わされるに過ぎない。

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2009年9月11日 (金)

映画78・・フランス軍中尉の女

フランス軍中尉の女(1981・アメリカ)

51kpqbqjvkl原作・ジョン・ファウルズ、監督・ カレル・ライス、出演・メリル・ストリープ、 ジェレミー・アイアンズ・・

英国ビクトリア朝時代に「フランス軍中尉の女」と蔑まれた一人の女性の物語を、現代の俳優が演じるという二重構造で描く。

考古学研究で、イングランド南西部の漁村ライムに滞在中のチャールズ(アイアンズ)は、地元の権力者の娘アーネスティナと婚約し、海岸線へと散歩に。荒波の埠頭の先端に人影。「サラ・ウッドラフ(ストリープ)、フランス軍中尉の女よ」。アーネスティナが冷やかに言う。黒マントの女サラは、蒼白で悲しみに沈んだ表情。それ以来、チャールズの胸裏にサラが焼き付く。雇い主に死なれたサラは、厳格なポートニー夫人のもとで働く。化石の宝庫のアンダークリフでチャールズは再びサラを見掛ける。初めて言葉を交わす二人。ポートニー夫人とアーネスティナのパーティーに来たサラは、チャールズに手紙を渡し彼を墓地に誘う。再び会う約束をしたチャールズは、彼女の行動を理解出来ず医師グローガンに相談。医師は、孤独を楽しむサラの愛の犠牲者にならぬよう忠告。アンダークリフで、フランス軍中尉との悲恋を語るサラ。サラがポートニー夫人に追い出され失踪したと聞き動揺するチャールズ。納屋で彼女を見付けロンドンヘ逃がし、その後彼女を追う。宿で初めて結ばれるが彼は処女のサラに茫然。ライムに戻り婚約を破棄し、サラの元へと急ぐが彼女はいない・・

ドラマを演じるマイク(アイアンズ)はアンナ(ストリープ)を愛し始め、時々二人はベッドを共にするが、互いに結婚しており結ばれるのは不可能。撮影がクライマックスに近付き劇同様に心を傷めるマイク。撮影が終わり打ち上げパーティで、アンナはマイクを残し去る・・

三年後に連絡してきたサラを問い詰めるが、許して湖にボートで出る。

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2009年9月10日 (木)

本58・・車輪の下

車輪の下・・ヘルマン・ヘッセ著

01975464周りの人々から期待され、その期待に踏み潰されてしまった少年の姿を描く自伝的小説。題名の「車輪」は、主人公の少年を押し潰す社会の仕組みを表現。

天才的な才能を持ち育った少年ハンスは、エリート養成学校である神学校に2位の成績で合格。幼い頃に母を亡くし、父や町中の人々から将来を嘱望されるものの、神学校の仲間と触れ合う内に、勉学一筋に生きて来た自らの生き方に疑問を感じる。そして周囲の期待に応えるために自らの欲望を押し殺してきた果てに、ハンスの細い心身は疲弊して行く。勉強に対するやる気を失い、遂に神学校を退学。その後機械工となり出直そうとするが、挫折感と、昔共に学んだ同級生への劣等感から自暴自棄となり、慣れない酒に酔って川に落ち溺死する。

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2009年9月 8日 (火)

本57・・狭き門

狭き門・・アンドレ・ジッド著

1題名の「狭き門」は、新約聖書のマタイ福音書第7章第13節に表れる「狭き門より入れ、滅にいたる門は大きく、その路は廣く、之より入る者おほし」というキリストの言葉に由来。

早く父を失ったジェロームは、少年時代から夏を叔父の下で過ごすが、そこで従姉のアリサを知り密かな愛を覚える。しかし、母親の不倫等の不幸な環境のために天上の愛を求めて生きるアリサは、ジェロームへの思慕を断ち切れず彼を愛しながらも、地上的な愛を拒み人知れず死んで行く。残された日記には、彼を思う気持ちと、「狭き門」を通って神へ進む戦いとの苦悩が記されていた。

アリサの自己犠牲の精神は美しく描かれているが、ジッドはこの作品を通し、アリサのような自己犠牲に対し批判。

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2009年9月 7日 (月)

映画77・・ミヨリの森

ミヨリの森(2007・日本)

010121024原作・小田ひで次、監督・山本二三

11歳の少女の心の成長と森の生命力を描く。

ミヨリは、母親が男を作って家を出て行き、一人で育てることに不安を感じた父は、ミヨリを田舎の祖母の家に預ける。冷たい家庭環境で育ったせいかミヨリには空想癖があり、心を閉ざし他人との関係を否定してきた意地っ張りな少女。

ミヨリは祖母の家に着くと、早速近くの森に散歩に出掛ける。何もない森の中で強い孤独を感じていたが、その森で数々の不思議な出来事に遭遇。やがて森の精霊たちがミヨリの前に姿を現し出し、ミヨリは森の持つ不思議な生命力で徐々に癒やされる。精霊たちの姿はミヨリにしか見えず、彼等はミヨリに森を守って欲しいと頼む。何もない田舎のはずが不思議な驚きの毎日の始まり。ミヨリは祖父母との暮らしや、新しい学校での生活、両親、友達、自分自身、そしてこの森のことを考え始める。この森が近い将来ダムの底に沈む運命にあると知り、「森の守り神」として皆と助け合いながらダム建設計画を阻止しようと動き出す。

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2009年9月 5日 (土)

絵画14・・ピーテル・ブリューゲル

ピーテル・ブリューゲル(1525~1569)

フランドル画家。初期にはヒエロニムス・ボス影響の寓話を題材にし、後に農民達の生活を描く。「ベツレヘムの嬰児虐殺」(マタイ伝;ベツレヘムでキリストの生まれ変わりが誕生したという話に怯えたユダヤのヘロデ王が2才以下の嬰児を殺させた)ウィーン美術史美術館蔵。嬰児を荷物や動物に描き換えられた作品(stジェームズ宮蔵)も。同名の長男は父の多くを模作。

Massacre_of_the_innocents_at_bethle Netherlandish_proverbs The_fall_of_icarus    

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2009年9月 4日 (金)

機織り・・その31

090606_34_0033セット(+無地1枚)その4の②

水流風の道長取りに、柄と地模様。

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2009年9月 3日 (木)

本56・・北回帰線

北回帰線・・ヘンリー・ミラー著

3z39792僕は金も希望も無いが、一番幸福な人間だ。自分を芸術家と思っていたが、今は文学も抜け落ちてただ存在するだけ。これは普通の小説ではなく、罵倒であり、讒謗(ざんぼう)であり、人格の毀損だ。「芸術」の面に吐きかけた唾の塊であり、神・人間・運命・愛などを蹴飛ばし拒絶する。諸君のために歌うつもりだ。諸君が泣き言を言ってる暇に僕は歌う。諸君の汚らしい死骸の上で踊ってやる・・と始まる、著者の放浪のパリ時代を奔放に綴った処女作。

アウグスティヌスではないが、「汝自身に帰れ」という自身の全存在を貫く根源的なテーマを、自己以外のものから自己を奪還するために、家庭に反抗し、社会に反逆し、アメリカを呪詛してパリへ逃避した著者の、形式を打破した生活の「足掻き」が聞こえる。

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