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2009年11月13日 (金)

本76・・遠い声 遠い部屋

遠い声 遠い部屋・・トルーマン・カポーティ著

209502「心は万物よりも偽るものにして甚だ悪し 誰かこれを知るをえんや」。傷付き易い豊かな感受性を持った少年が、自我を見出すまでの精神的成長の途上で辿る数々の内的葛藤を象徴。近付きつつある青春前期の予感に慄く怯えた少年の目には、何でもない驚きや期待が拡大され途方もない重さで圧し掛かる。失われ行く少年期への痛ましいゴシック風挽歌。

父親を探してアメリカ南部の小さな町を訪れた13才のジョエルの前に現れる、トラック運転手ラドクリフ、スカリーズ(髑髏の館)へと連れて行く使者ジーザス、少女アイダベル。館では外界との連絡を絶たれ、ジョエルを待ち受けていた気味の悪い物音や話し声、歪んで映る鏡、音も無く開くドア、揺らめくランプの灯影、窓から手招きする女・・義理の母となる華やかだった南部全盛時代の思い出に生きるエイミイ、その従兄弟で「未来の全ては過去に存在する」と言い世界中の郵便局に手紙を出すランドルフ、廃墟のホテルを守る世捨て人のリトル・サンシャイン、二つのガラス目玉になって身動き出来ない父親のエド・サンソム。過去の夢を齧りながら生きている「時」の囚人ばかり。孤独と絶望に追い込まれ、距離と時間の二重の足枷を掛けられたジョエルは「遠い声」と「遠い部屋」に慰めを求め心の中への逃避を始める・・ある日、アイダベルと物理的に脱出するも、雷雨に打たれ連れ戻され、高熱に魘されて病床生活。叔母の訪れさえ知らされず遠避けられるが、高熱から覚めたジョエルの目は、いつしか少年の持つレンズの歪みを無くし、周りの世界も魔法が剥ぎ取られ、子供の恐怖から抜け出た彼は、今や大人の恐怖の世界へ踏み込みつつあり(窓から手招きする女装のランドルフに応じるべく、その方へ)、抜け出てきた少年の日々の姿を懐かしむように後ろを振り返る・・

「今世紀の最も輝かしい破壊の天使」と云われ、「麻薬常用者でアル中でゲイで天才」と自称したカポーティ。1984年の夏、友人宅で麻薬の乱用により変死体となって発見される。13才のジョエルは、彼の出発点でもありゴールでもある。

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