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2010年2月 1日 (月)

本110・・イワン・デニーソヴィチの一日

イワン・デニーソヴィチの一日・・アレクサンドル・イサエヴィチ・ソルジェニーツィン著

51pnwielmkl__sl500_aa300_スターリン暗黒時代の、悲惨極まる強制収容所のある一日を、自身の収容所での8年間とその後の追放時代の経験により、リアルだが温もりを込めて描かれる。

主人公イワン・デニーソヴィチ・シューホフは、ドイツ軍の捕虜となりながら脱走するが、母国当局の信用を得られず、「祖国を裏切ったという署名を拒めば、経帷子(かたびら)を着せられる」ため署名し、10年の強制収容所送り。登場人物達は、そのままソ連社会の各階層(百姓、軍人、インテリ、オールドポリシェヴィキ、パブティスト信者、富農、官僚)を代表し、仲間内では、スターリンに対する批判、朝鮮戦争を巡る世界政治の動向、ソ連経済の現状などや、神や宗教、芸術についても論議され、収容所内での密告や裏切り、処罰やささやかな反抗、過酷な状況下での高潔な行為等が展開される。衝撃的で悲惨な環境でありながら、極めて抑制の効いた静かな文章のため、「午前5時、いつものように、起床の鐘が鳴った」で始まり、「シューホフは、すっかり満ち足りた気持ちで眠りに落ちる・・幸運な一日だった。営倉へもぶち込まれず、自分の班がそこそこの作業場で仕事を終えられた。昼飯の時に割りのよい粥が食べられた。班長がうまく切り盛りしてくれた。皆で楽しくブロック積みが出来た。必要な欠片が身体検査で見つからなかった。晩には仲間にささやかな稼ぎをさせてもらった。煙草も買えた。どうやら病気にならずに済んだ・・で終わる、密度の濃い一日が、その語り口によってともすれば民話風の趣さえ醸される。ソ連という国家の長い歴史と、そこに住む人々の深刻な苦悩が浮き彫りになりつつも、彼等の、逆境の中にあっても絶望せず足元を見て生きる、明日という日を信じて止まない楽天的な気質が、ほろ苦いユーモアとなる。

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