本175・・骨董屋
骨董屋・・チャールズ・ディケンズ著
19世紀、イギリス産業革命の激動の時代を背景に、祖父に引き取られた純真無垢な少女ネルの辿る薄幸の短い生涯を描く。
骨董屋を営んでいたトレント老人は、ネル可愛さの余り一攫千金を夢見て賭博に手を出し破産。ネルと老人は、高利貸クウィルプに差し押さえられた骨董屋を後にし、二人は当てのない乞食同然の旅に出る。それほど困っていなかった境遇から、一挙に転落して行く老人と孫娘の不幸。賭博に魂を奪われてしまった老人は最早生きる希望も持てず、僅かな金が手に入ると狂ったように賭博場へ向かう。ネルが必死の思いで隠していた最後の金さえ盗み出すといった狂いようで、そこには普段孫娘に見せる優しさなど微塵も無い。ネルのためと埒も無い言い訳をし、賭博に因って曇ってしまった彼の目には、その苦しむ姿も、それによって自分達がいっそう苦境に陥るということも見えない。終いには世話になった人の金に手を出そうとする始末で、それを避けようとネルは心身共に辛い自分に鞭打って、老人との貧しく苦しい旅を魂の遍歴の旅に擬して心の安らぎを得ようとする。ネルの心がそれほどまでに清らかで尊いのに対し、老人はどこまでも俗世界の塵にまみれ金の束縛から逃れることが出来ず、ネルに何もかも頼りっぱなし。自分の手で可愛い孫娘の首を絞め、命をすり減らしていることに全く気付かない。その頃、元使用人で幼馴染みのキットは、クウィルプに謀られ泥棒として訴えられどん底に落ちるが、辛くも無実を晴らすことが出来、クウィルプは逮捕寸前に誤って溺死。ネルと老人はあちこちで人の善意に守られて寂れた教会に辿り着くが、やっとキットや老人の弟が二人の居場所に辿り着いた時、既にネルは息を引き取っていた・・ネルの死は、飽きることを知らない利潤追求の資本主義と、金に取り付かれた利己主義に踏みにじられていく人間的な価値の象徴となっている。
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