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2011年6月22日 (水)

本193・・片恋・ファウスト

片恋・ファウスト・・イワン・ツルゲーネフ著

19857760★「片恋」・・ロシアからドイツへ気ままな旅をしていた当時25才の語り手が、回想によって若き日の恋を振り返る。ある町でロシア貴族の兄妹(ガーギン、アーチャ)と知り合う。外見は似ておらず、どこか見る者に違和感を抱かせるこの兄妹に惹かれた彼は、2人の宿を度々訪問。アーチャは純真でいながら、時折火のような熱情と激しい気性を垣間見せ、その教養や素行は貴族の出自とは思えない。やがて兄から、妹は腹違いで妾腹の子だと告白され、衝撃を受けると同時に彼女に恋をしているのを自覚。彼女も彼に惹かれるが、情緒不安定な妹がこの恋愛によって心乱されるのを恐れた兄は、妹を連れ彼に黙って宿を後にする・・彼女から心を打ち明けられたにも拘わらず、引き止めもせず、彼女の望む一言を与えず、それを正当化した自分。彼は2人の後を追うが結局再会は叶わず、それきりになった彼女の面影を諦めと共に懐かしむ。

★「ファウスト」・・ゲーテの「ファウスト」がモチーフ。今は中年の語り手が青年だった頃に恋したヴェーラは、かつての同級生の妻で、彼はこの夫を通じてヴェーラと再会。彼女は今では子供のいる身だが以前と変わらず若々しい。ヴェーラは祖母から熱烈なイタリーの血を受け継ぎ量り知れぬ熱情を秘めると同時に、祖父からは神秘的・超自然的な心的傾向が遺伝し、優れた頭脳と感受性をも賦与されたインテリゲント。母の不自然な人工的教育法(世間に触れさせず、本も読ませない)で激しい感情を深く埋没されたため、単純で無邪気な少女の様な心のまま妻となり母に。自我の本質を自分でも意識せず、他人にも示さず時を移して来た。主人公によって「ファウスト」の内容を知り、芸術に対する目を見開かされ、人間の赤裸々な姿と、その人生に於ける深い意義や甘美な惑わしを知った時、深部に眠っていた熱情が眠りから覚め否応のない暴君の様な猛威を彼女に揮った。しかし、彼女の遺伝と染み込んだ母の誤れる教育を振り払えず、矛盾相克に抵抗出来ずに死ぬ。ゲーテの「ファウスト」に於ける嘲笑と卑俗の悪魔であるメフィストと違い、熱情を運命的な暗黒の力と信じ込ませた母の幻影が、ヴェーラの場合、愛と幸福の幻の前に身を滅ぼさせた・・彼女は最後まで沈黙する術を知っており、人妻への愛に気付いてもなお立ち去れなかった自分が彼女を打ち砕いたのだ、と呆然と立ち竦む。

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