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2012年8月17日 (金)

本236・・心変わり

心変わり・・ミシェル・ビュトール著

51vqaa87n4l早朝、汽車に乗り込んだ「きみ」は・・と二人称で綴られる、一昼夜。パリに住むメーカーの支社長レオン(45歳)が、ローマの愛人セシルと過ごした2年間の彼岸的・神話的ローマ時間を現実のものとして実現しようとする様を描く。

彼は今、パリで彼女と暮らすためセシルの職や住まいの当てが出来たことを告げるためローマに向かっている。私的な旅行のため、急行の一等ではなく三等夜行列車で、所要時間21時間35分。パリを出た時の彼は新しい生活への希望に満ち、気詰まりな家庭から解放され、恋人の若さの刺激やその快適さへの想いが心を充たす。

だが、列車が延々と走り続け、その旅に倦み疲れてくるに従い、今自分がしようとしていることへの不安や疑問が滲み出す。恋人をパリに連れて来ることで本当に幸せになれるのか。恋人は、パリに来た途端に第二の妻になるだけではないか。彼は徐々に、彼女を恋していたのは彼女がローマの女性だからで、彼女を通してローマを見ていたことに気付く。次第に疲れの溜まる中で、愛しい恋人も夢の中の存在ではなくなり、パリに彼女呼んだ後に起こるであろう諸々やパリでの彼女の暮らしを考える内、彼女が彼にとって現実の女に変わっていく。更に、仕事で乗る急行の一等車は普段の彼の生活を反映し、三等車での疲れ果てた旅は、家族を捨て恋人を取った後の彼の生活を象徴するように思う。列車に乗った時には意気揚々とし、恋人に内緒で彼女が待ち望む答えを持ちローマを訪れるという快挙に自分が出たことを嬉しく思った筈が、ローマに近付くに連れ、もう彼女とは今までのようには過ごせないだろう、彼女をパリに呼ぶのは止めよう、今回の旅も彼女には告げず、会わずに帰ろうと考えるに至る。

パリとローマを繋ぐ過ぎ行く時間の中で、実現可能と思われた空想は敢え無く色褪せ、二人称の語りで、過去・現在・未来、推定過去や条件付未来などの空想や妄想に因り、動揺し崩壊して行く。

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