« 絵画277・・A=ジャン・グロ | トップページ | 絵画278・・レオン・コニエ »

2014年1月19日 (日)

本265・・臨場

臨場・・横山秀夫著

51nlfwuyhml__sx230_心中を語らず、鑑識畑一筋の鋭利な「検視眼」は伝説化し、終身検視官とされる倉石。辛辣で 組織の子宮を食い破って現れたような無頼だが、部下の信頼は厚く、慕う刑事・課員・記者は後を絶たない。

∇「赤い名刺」・・倉石の下で見習い中の一ノ瀬は、倉石を尊敬しつつも将来への野心を抱く。事件の一報で遺体の資料がFAXされるが、それは一ノ瀬のかつての不倫相手・ゆかり。一ノ瀬の葛藤が始まる。遺留品に自分と結びつく名刺が発見されれば警察官としての将来は終わる。急行し証拠を回収せねば。動揺を倉石に見透かされているのではないかという恐怖と不安。現場を仕切れとの命令で調べ、「結婚するの」と見せた指輪が無い事に気付くが、殺人の痕跡が見付からず、縊死と判断するしかない。隙を見て名刺の挟まった手帳をポケットへ。帰宅し手帳の名刺を見ると、名前や肩書き等は赤いハートで埋まっていた。ゆかりの思いを知った一ノ瀬は、現場に戻り倉石に全てを話す。殺したのは、分かり難い内開きのドアを当たり前のように開けて現場に来た、指輪の贈り主の監察医・谷田部。

∇「鉢植えの女」・・表題事件と併発した事件。家庭に疲れた45歳の主婦・裕子は、サイトで知り合った一回りも年下の男に溺れ、捨てられる位ならと青酸カリで無理心中。一ノ瀬は現場で、この事件を「倉石学校」の卒業試験とし張り切る。悶絶の形相の男と、穏やかな死に顔の裕子。不自然な状況での一ノ瀬の結論に、倉石は「検視で拾えるものは根こそぎ拾ってやれ」と。倉石が別件から戻ると、再試験を待つ一ノ瀬。再結論に「上出来だ」と言い立ち去る倉石。感謝と寂しさ、その背中への決意、一ノ瀬は事件後栄転。

∇「餞」・・定年を控えた小松崎刑事部長。郵便物の整理をしていると、13年前から届く「霧山郡」とだけ記された、差出人不明の年賀状や暑中見舞いが去年の年賀状を最後に途絶え、やはり死んだのかと気になる。倉石に相談すると、霧山郡で昨年亡くなった中に溺死した77歳の老婆がいたと。後遺症で杖無しでは歩けない体で、1Kの上り坂を歩き川に流された。老婆は小松崎の産みの母親で、自殺ではなかったかと悔やむ小松崎に、陰ながら見守っていた息子を誇りにしていた筈だ、事故だったのだと念を押す倉石。

∇「黒星」・・婦警の小坂留美。男運が悪く落ち込んでいた時、同期でかつて一人の男(国広)を取り合い、10年前に警察を辞めた友人・春枝から電話。明るい様子と「明日あたり会うかもね」の言葉で切れた。翌朝、留美は春枝の遺体の前にいた(車の排ガス死)。誰もが自殺と判断する中、倉石は殺しだと断定。季節に関わらず冬の詩ばかりの絵葉書。婚家を追われ子供も取られていた。1ヶ月だけ部下だった春江の死の真相を探るため、敢えて黒星に甘んじた倉石。死に際し、春江は未だ想い切れなかった国広からの口紅を付けて。

∇「十七年蝉」・・勤続15年、幾つもの部署を渡り歩いて来た巡査部長・永嶋に、倉石の部下としての辞令。不慣れな仕事に忙殺される中、不良高校生の射殺事件。倉石の口から出たのは「十七年蝉」という言葉、永嶋も聞いた事があった。十七年周期で起こる類似の事件・・17年前、16歳の永嶋は互いに何処にも居場所の無い朱美を恋人にしていたが、ある時、朱美が不良達に騙され輪姦される。永嶋はバットを手に彼等を半殺しにしたが、輪姦の発覚を怖れた不良等は仲間内の喧嘩とした。1ヵ月後、朱美が手首を切って自殺・・孕んだ朱美の母を捨てた大学教授の父親が、愛ではなく、本能で子孫を経たれた憎しみで起こした事件。永嶋は、あの1ヶ月腫れ物のように守るだけで触れずにいた自分に朱美は決別したのかと悔いる。「死者にも自由はある、もう手放して逝かせてやれ」との倉石の言葉。17年前、半狂乱の永嶋を現場から遠避けた検視官が倉石だった。

|

« 絵画277・・A=ジャン・グロ | トップページ | 絵画278・・レオン・コニエ »

」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 絵画277・・A=ジャン・グロ | トップページ | 絵画278・・レオン・コニエ »