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2014年5月22日 (木)

本278・・梶井基次郎

梶井基次郎・・梶井基次郎著

51agljxgsl_sx230_∇「檸檬」・・得体の知れぬ不吉な塊が心を圧し、居堪らず街を放浪する。見すぼらしく美しいものに惹き付けられ、京都から逃げ出し誰一人知らない市へ行きたい。錯覚と壊れ掛った街との二重写しの中に、現実の自分を見失うのを楽しむ。ある朝、街から街へ彷徨い、二条の寺町を下がり果物屋で足を留める。飾り窓の光が夥しく街路へ流れるが、その店頭の周囲だけが妙に暗い。元々檸檬の色や錘形の恰好が好きで、一つ買う。心の不吉な塊が檸檬を握った瞬間から幾分緩み、幸福でその冷たさも快い。どう歩いたのか、丸善の前に立ち、画本の棚へ。何冊も引き出し積み上げるが、疲労感と耐え難い憂鬱で一杯になる。袂の檸檬を憶い出し、本の城壁の頂きに据え付け、何食わぬ顔で外へ。あの黄金色に輝く爆弾を仕掛けた奇怪な悪漢が自分で、丸善の美術の棚を中心に大爆発したら面白いだろう・・その想像を追求しながら京極を下る。
∇「桜の樹の下には」・・桜の樹の下には屍体が埋まっている。信じ難いのは、あんなにも見事に美しく咲く事。どんな樹の花でも、真っ盛りには神秘な雰囲気を撒き散らす。人の心を撲たずにはおかぬ美しさで、逆に不安で憂鬱に空虚になる。咲き乱れる桜の樹の下に、一つ一つ屍体が埋まっているとしたら。屍体は腐乱して蛆が湧き堪らなく臭いが、水晶の様な液を垂らす。桜の根はその液体を吸い、それが維管束を夢の様に上がっていく・・渓の水が乾いた磧の水溜りに、光彩が一面に浮くのを見る。産卵を終わった数知れない薄羽かげろうの屍体の翅からの虹。墓場を発いた様な残忍な喜びに胸を突かれる。ただの渓間の景色は朦朧としてい、惨劇が必要で、その平衡で心象が明確になる。悪鬼の様に憂鬱に乾く心は、憂鬱の完成で和む・・何処からとも判らぬ空想の屍体が、桜の樹と一つになり頭を離れない。今こそ、桜の樹の下で酒宴を開く村人達と同じ権利で、花見の酒が呑めそうだ。

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