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2016年7月 4日 (月)

本308・・旅人は死なない

旅人は死なない・・リシャール・コラス著

41zgxeabbol∇「息子の帰還」・・その昔、山奥の小さな村外れで代々暮らす農家。町で中学を終えたひとり息子は、ある娘を見掛け恋をしたことで家を出る決心をする。ある朝餉の席で両親に告げると、振り向きもせず町へ。見習い店員を始め(娘がそこの顧客)、真面目に働き娘に告白するチャンスを待ち二年を経たある日、娘は家族と婚礼衣装を整えにやって来る。呆然と過ごした一年後、店に暇を告げ寒い朝家に帰る。「ただいま!」と玄関の引き戸を開けた。父は囲炉裏の前に居り、卓袱台には朝餉が置かれ、虚ろな遠くを見詰める眼差し。その後ろで母は漬物の小皿を手に立っていた。心地よい平穏に包まれた若者だが、その沈黙は余りに深かった。若者は身を凍らせ一気に引き戸を閉めた。この振動と風によって、息子を待ち続けたが故に木乃伊となった両親は、音も無く崩れ落ちた。
∇「フェルメール熱」・・鬼子母神裏の路地にある古びた寿司屋。主人は無口だが仕事は芸術品。主人の後ろの壁にフェルメールの複製「レースを編む女」の額縁。主人が訥々と語る。この絵に魅せられて以来、倹しく暮らし15年前からフェルメール作品の原画を観る事が人生の目的になったと。時が経ち36作品の内あと6作品となる。フェルメールの描く女性は自分の至らなさに失った女性に似ていると。ある日、もう旅には出ないと言う。最後に観たかった作品「合奏」が盗まれてしまったのだ。消えた幽霊は追えない、と。
∇「叶わぬ夢」・・写真家としてNYに暮らす、由緒ある寺の末息子。ある日、長兄から「父危篤」の知らせ。父は峻厳な人で、耳掻きをしてもらった記憶しかない。父の死に目に会えず、父が自分を後継ぎとして望んでいたと現住職の兄から聞く。父の書斎で、文机の上の書類から自分宛ての封筒が。自分の写真が初めて権威ある雑誌に載せられた記事が入っていた。山道を巡礼する僧侶の写真で、逆光で撮られた姿が後光で包まれているようだった。そこに父の筆跡で「すべての夢が叶わぬわけではない」と。

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