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2016年7月

2016年7月23日 (土)

本309・・銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜・・宮沢賢治著

S1950953∇「よだかの星」・・実に醜いという外見故に小鳥達から有形無形のいじめを受け、その名前の故に猛禽である鷹から理不尽な改名を迫られる。名前を奪われるとは本質的存在性を犯されることであり、醜さは羽虫や甲虫に対する惨殺者という自分への嫌忌と表裏を成す。よだかの苦衷は全生物が置かれている食物連鎖という宿命への意識であり、死を決意して夜空に駆け上り燃え尽きる様は極めて純粋で悲痛であり悲劇的である。
∇「銀河鉄道の夜」・・貧しい孤独な少年が夢の中で親友と汽車の旅をする・・少年の貧しさと孤独の背後には、父親の不在、母親の病、同級生のいじめという環境ばかりでなく、存在自体に根差す苦悩や、(詩人の)本質的孤独が潜んでいる。夢の旅と云ってもそれは死者達の乗る汽車、その線路は夜の大空を銀河の流れに沿って何処までも巡って行くのであり、同行する親友は級友を救おうとして溺れたための死出の旅路にある・・少年はやがて「皆の本当の幸せ」を求めて行こうと心し、銀河の祭りの夜の河原で夢から覚める。そのイメージや象徴が様々な解釈をさせ、再び闇夜へ突き戻す。

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2016年7月 4日 (月)

本308・・旅人は死なない

旅人は死なない・・リシャール・コラス著

41zgxeabbol∇「息子の帰還」・・その昔、山奥の小さな村外れで代々暮らす農家。町で中学を終えたひとり息子は、ある娘を見掛け恋をしたことで家を出る決心をする。ある朝餉の席で両親に告げると、振り向きもせず町へ。見習い店員を始め(娘がそこの顧客)、真面目に働き娘に告白するチャンスを待ち二年を経たある日、娘は家族と婚礼衣装を整えにやって来る。呆然と過ごした一年後、店に暇を告げ寒い朝家に帰る。「ただいま!」と玄関の引き戸を開けた。父は囲炉裏の前に居り、卓袱台には朝餉が置かれ、虚ろな遠くを見詰める眼差し。その後ろで母は漬物の小皿を手に立っていた。心地よい平穏に包まれた若者だが、その沈黙は余りに深かった。若者は身を凍らせ一気に引き戸を閉めた。この振動と風によって、息子を待ち続けたが故に木乃伊となった両親は、音も無く崩れ落ちた。
∇「フェルメール熱」・・鬼子母神裏の路地にある古びた寿司屋。主人は無口だが仕事は芸術品。主人の後ろの壁にフェルメールの複製「レースを編む女」の額縁。主人が訥々と語る。この絵に魅せられて以来、倹しく暮らし15年前からフェルメール作品の原画を観る事が人生の目的になったと。時が経ち36作品の内あと6作品となる。フェルメールの描く女性は自分の至らなさに失った女性に似ていると。ある日、もう旅には出ないと言う。最後に観たかった作品「合奏」が盗まれてしまったのだ。消えた幽霊は追えない、と。
∇「叶わぬ夢」・・写真家としてNYに暮らす、由緒ある寺の末息子。ある日、長兄から「父危篤」の知らせ。父は峻厳な人で、耳掻きをしてもらった記憶しかない。父の死に目に会えず、父が自分を後継ぎとして望んでいたと現住職の兄から聞く。父の書斎で、文机の上の書類から自分宛ての封筒が。自分の写真が初めて権威ある雑誌に載せられた記事が入っていた。山道を巡礼する僧侶の写真で、逆光で撮られた姿が後光で包まれているようだった。そこに父の筆跡で「すべての夢が叶わぬわけではない」と。

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