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2017年5月

2017年5月19日 (金)

本317・・月と六ペンス

月と六ペンス・・サマセット・モーム著

4102130055_2題名には象徴的な意味が有り、「月」は人間を狂気に導く芸術的情熱を、「六ペンス」は下らない世俗的因習や絆を指す。
作家である語り部が、ストリックランド夫人のパーティーに招かれ夫のチャールズと知り合う。ストリックランドはイギリスの証券会社に勤めていたが、突然行方を晦ましてしまう。夫人の依頼でパリへ向かいストリックランドに会うが、駆け落ち女性など居らず一人で貧しい生活をしていた。画を描くために生活を捨てた、と。夫人は凡庸だと思っていた夫の失踪にショックを受けるが、やがて自立して行く。
5年後、パリ暮らしの中でストリックランドに心酔する三流画家ストルーヴに再会し、共にストリックランドを訪ねる。ストルーヴは妻ブランチの反対を押し切って、重病だったストリックランドを引き取るが、アトリエも彼に惹かれた妻をも失う。ブランチは自分の愛情を受け入れてもらえず服毒自殺し、ストルーヴは故郷オランダへ帰る。
家庭を捨てた時もブランチの自殺にも後ろめたさを感じず、批判にも一切動じないストリックランド。とんでもなく風変わりで或る意味超然としている。
ストリックランドの死後、彼の絵は高値で売買される様になる。タヒチを訪れた作家は、ストリックランドと繋がりの有った人々に当時の彼について聞く。貧しさからのその日暮らしで、船員をしたり農場で働いていた事。宿屋のおかみが幼い現地妻アタを斡旋し、子供を含め奥地で暮らしていた事。医師クートラは、癩病を患い数年後に死んだストリックランドをアタと二人で葬っていた。
ロンドンに帰った作者はストリックランド夫人に再会し、彼のその後について伝える。子供達はそれぞれに真っ直ぐ成長していたが、アタとの間の息子が彼によく似て大海原で船を操る姿が目に浮かぶ。

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2017年5月 7日 (日)

本316・・人間の絆

人間の絆・・サマセット・モーム著

41aa707aw1l_sx333_bo1204203200_モームの自伝的作品と云われる、主人公フィリップ・ケアリの半生を描く。情念という絆に縛られた奴隷的人生が、その桎梏を断ち切って、支配される側から支配する自由な人間にまで発展出来るか、の精神史。
幼い頃親を喪い、子の無い伯父である牧師に引き取られるが、蝦足である劣等感のため神学校で萎縮し、徐々に学業への意義や信仰心を失って行く。その後、伯父の薦めに逆らって神学校を中退し、ドイツに留学するも無為の生活に陥り、帰国後は会計事務所で働くが興味を持てず。親の遺産を形にパリで画の修業を始めるが才能の無さに再びロンドンに戻り、父と同じ医学の道を目指す。この頃からカフェで働いていたミルドレッドを知り、引きずられ始める。彼の友人込みで彼女に裏切られ、遺産が減る中投機に失敗し路頭に迷い、庶民の苦しみを初めて知る。追い詰められ死をも思う内に、以前患者だったアセルニー一家に救われ援けられ、伯父の死をも願いその死で遺産を手にした彼は2年振りに医学過程に戻り、30歳近くなってどうにか医者となる。
医学の勉強中知り合った献身的で誠実なノラを捨て、その後もミルドレッドが現れる度に振り回され裏切られる懲りない度し難さ。パリ時代の浮ついた生活の中、敗残の唯美派詩人のクロンショーから贈られた小さなペルシャ絨毯の意味。人生は無意味で行き死にも関係ない、人は自分の喜びのために生きるので(絨毯の模様意匠を織り出した織人も同じ)、幸福への願望(情念が作り出した幻影を虚しく追及する)を捨てる事によって最後の迷妄を振り落とせれば・・
フィリップは、医師となった暁にはスペインを訪れエル・グレコ等の作品を見、その後ものんびりと見知らぬ東洋等を旅行するのが夢だったが、アセルニーの長女サリーの現実的で牧歌的な良さに気付き、婚約する所で話は終わる。

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