« 本320・・未来のイヴ | トップページ | 本322・・ダナエ »

2018年3月10日 (土)

本321・・高瀬舟

高瀬舟・・森鴎外著

Moriougai徳川時代。京都の罪人が遠島を言い渡されると、高瀬舟で大阪へ廻された。それを護送して行く京都町奉行所附の同心が度々悲しい話ばかり聞かせられる。或る時、この舟に載せられた兄弟殺しの科を犯した男が、少しも悲しがっていない静かな様子に、不審に思った同心がその仔細を尋ねると、これまで食を得ることに困っていたのに、遠島を言い渡された時、銅銭二百文を貰ったが、銭を使わずにこうして持っているのは初めてだと答える。また人殺しの科はどうして犯したかと問えば、兄弟は西陣に雇われて空引(機織り)をしていたが、給料が少なくて暮らしが立ち兼ねた、弟が重い病を抱え自殺を謀ったが死に切れなかった、弟に所詮助からぬから殺してくれと頼まれ、不憫に思い止めを刺したのだと・・
当時遠島を申し渡された罪人は、獰(どう)悪な人物が多数を占めていたわけではない。例えば、相対死(心中)の生き残りとか。
幼くしてふた親に先立たれ、兄弟相和して助け合うも、常に僅かの営みに粥を啜り露命をつなぎ銭の残らぬ者が、吟味され在牢の内、働かず養われ、決まりとはいえ鳥目二百文も渡され島ヘつかわされるしみじみとした有り難さ。
兄への負担を申し訳なく思う弟の死に切れぬ辛さと、助からぬ命なら痛みに苦しませるより手伝って死なせてやる兄。
・・貧富に対する観念の違いも有り、僅かなもので事足れりと出来る者とそうではない者。罪科も様々で、たとえ人殺しとなっても苦痛を長引かせるよりはという安楽死問題等々、正と義には大きな矛盾もある。

|

« 本320・・未来のイヴ | トップページ | 本322・・ダナエ »

」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 本320・・未来のイヴ | トップページ | 本322・・ダナエ »