本322・・ダナエ
ダナエ・・藤原伊織著

世界的評価を受けるようになった画家・宇佐美の個展で、財界の大物・古川(義父)の肖像画が、硫酸を掛けられ切り裂かれた(レンブラントの『ダナエと』同じ)。画廊への電話で犯人の少女は「これは予行演習だ」と。宇佐美はこれを警察沙汰にしない。宇佐美の妻(宇佐美は既に別れる積り)は娘を残し離婚していたが・・
宇佐美も再婚で、別れた妻・早苗は彼が売れるまで身を落としてまで彼を支え続け、自ら身を引いた。
早苗は当時、薬に手を出しその後体を壊した。宇佐美に告げずに生んだ娘・神奈。その後死亡。母と宇佐美の中を裂いた古川、母を捨てた宇佐美、と思い込み、従姉に手伝ってもらっての神奈の復讐だった。
神奈からアトリエに火を放つと告げられた宇佐美は、アコーディオンとランプの静物画だけ避けてくれと頼む。それは、彼と早苗との想い出の縁(よすが)を描いたものだった・・
・・わが思惟するものは何ぞや すでに人生の虚妄に疲れて 今も尚家畜の如くに飢ゑたるかな。我れは何物をも喪失せず また一切を失い尽くせり(萩原朔太郎)
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